万葉集 巻第十四 3406〜3410番
上毛野 佐野のくくだち
上野国の相聞歌。佐野の茎立ちを折って待っていよう今年来なくてもという歌、眞桑島門に朝日がさすようにまぶしいという歌、新田山の嶺のようにどちらにも付かない子がいとしいという歌、伊香保の天雲のように寄り添って寝ようという歌、伊香保の榛原のように先のことを思い悩むなという歌。
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題詞東歌(相聞)上野國
- 1上毛野上毛野かみつけぬ可美都氣野3406
- 2佐野佐野さののののくくだちくくだちくくだち左野乃九久多知
- 3折折おりりり榮榮はやししし乎里波夜志
- 4吾吾あれははは待待またたたむむんゑゑえ安禮波麻多牟惠
- 5今年今年ことし來來こずずずともともとも許登之許受登母
- 6上毛野上毛野かみつけぬ可美都氣努3407
- 7眞眞ま桑桑くわ島島しま門門とににに麻具波思麻度爾
- 8朝日朝日あさひさしさしさし安佐日左指
- 9まぎらはしまぎらはしまぎらわしもももななな麻伎良波之母奈
- 10在在ありりりつつつつつつ見見みれれればばば安利都追見禮婆
- 11新田新田にいた山山やま爾比多夜麻3408
- 12嶺嶺ねにににははは著著つかかかなななななな禰爾波都可奈那
- 13吾吾わににによそりよそりよそり和爾余曾利
- 14間間はしなるなるなる兒兒こらららししし波之奈流兒良師
- 15あやにあやにあやに愛愛かなしししももも安夜爾可奈思母
- 16伊香保伊香保いかほろろろににに伊香保呂爾3409
- 17天天あま雲雲ぐもいいい繼繼つぎぎぎ安麻久母伊都藝
- 18鹿沼鹿沼かぬまづくづくずく可奴麻豆久
- 19人人ひととととおたおたおた延延はふふう比等登於多波布
- 20いざいざいざ寢寢ねしめしめしめとらとらとら伊射禰志米刀羅
- 21伊香保伊香保いかほろろろののの伊香保呂能3410
- 22傍傍そいののの榛榛はり原原はら蘇比乃波里波良
- 23ねもころねもころねもころににに禰毛己呂爾
- 24奧奧おくをををななな兼兼かねねねそそそ於久乎奈加禰曾
- 25まさかまさかまさかししし善善よかかかばばば麻左可思余加婆
現代語訳
〔3406〕上野の佐野の茎立ちを折ってはやし立て、私は待っていよう。たとえ今年は来なくても。
〔3407〕上野の眞桑島門に朝日がさすように、まぶしいほどだ。こうしてずっと見ていると。
〔3408〕新田山が嶺にはつかずに離れているように、私に寄り添いながらどっちつかずでいるあの子が、むやみにいとしい。
〔3409〕伊香保の山に天雲が次々とかかるように、鹿沼づく人と寄り添って、さあ寝させておくれ。
〔3410〕伊香保の山の傍らの榛の原のように、ねんごろに先のことまで気にかけるな。今さえよければ。
意訳
上野国の相聞歌の続きである。茎立ちを折って恋人の来るのを待つ歌、朝日のさす島門のように恋人がまぶしいという歌、寄り添いながらどっちつかずの恋人がいとしいという歌、伊香保の雲のように寄り添って寝ようと誘う歌、先のことを思い悩まず今を大切にしようという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- くくだち
- 茎立ち。菜の花の茎。
- 折り榮し
- 「をりはやし」。折ってはやして。
- 待たむゑ
- 待っていよう。「ゑ」は詠嘆。
- 眞桑島門
- 「まくはしまと」。地名か。
- まぎらはし
- まぶしい。
- 著かなな
- 「つかなな」。付かないで。「なな」は東国方言の打消。
- 間なる
- 「はしなる」。中途半端な、どっちつかずの。
- 鹿沼づく
- 「かぬまづく」。語義未詳。
- おた延ふ
- 寄り添う、の意か。
- 寢しめとら
- 寝させておくれ。
- 傍
- 「そひ」。かたわら。
- 奧をな兼ねそ
- 先のことまで気にかけるな。
- まさか
- 今。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3406〜3410番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。上野国の歌。
修辞
- 序詞
- 3407番の「上毛野眞桑島門に朝日さし」、3408番の「新田山嶺には著かなな」、3410番の「伊香保ろの傍の榛原」。
解説
伊香保は今の群馬県渋川市の伊香保温泉のあたりで、榛名山を指すとも言う。東歌に何度も詠まれる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、534頁(コマ60)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、619頁(コマ73)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日