万葉集 巻第十四 3402〜3405番
日の暮に 碓氷の山を
上野国の相聞歌二十二首のはじめの四首。碓氷の山を越える日に夫が袖をはっきり振ったという歌、今も悲しいが多胡の入野の奥のように行く末も悲しいという歌、安蘇の麻を抱くように共寝しても飽きないという歌、乎度の多杼里の川路で恋人に逢いたいという歌。
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題詞東歌(相聞)上野國
- 1日日ひののの暮暮ぐれににに比能具禮爾3402
- 2碓氷碓氷うすいののの山山やまををを宇須比乃夜麻乎
- 3越越こゆるゆるゆる日日ひははは古由流日波
- 4夫夫せなのののががが袖袖そでももも勢奈能我素低毛
- 5さやにさやにさやに振振ふらららしししつつつ佐夜爾布良思都
- 6吾吾あががが戀戀こいははは安我古非波3403
- 7まさかまさかまさかももも悲悲かなししし麻左香毛可奈思
- 8草草くさ枕枕まくら久佐麻久良
- 9多胡多胡たごののの入入いり野野のののの多胡能伊利野乃
- 10おくおくおくもももかなしかなしかなしももも於久母可奈思母
- 11上毛野上毛野かみつけぬ可美都氣努3404
- 12安蘇安蘇あそののの眞眞ま麻麻そ屯屯むら安蘇能麻素武良
- 13搔搔かききき抱抱むだききき可伎武太伎
- 14寢寢ぬれれれどどど飽飽あかかかぬぬぬををを奴禮杼安加奴乎
- 15何何あどどどかかか吾吾あがががせせせむむん安杼加安我世牟
- 16かみつけかみつけかみつけののの可美都氣努3405
- 17乎度乎度おどののの多杼里多杼里たどりががが乎度能多杼里我
- 18川川かわ路路じにににももも可波治爾毛
- 19兒兒こらららははは逢逢あははわなななももも兒良波安波奈毛
- 20一人一人ひとりのみのみのみしししててて比等理能未思氏
現代語訳
〔3402〕日暮れに碓氷の山を越える日には、夫が袖をはっきりと振ってくれたことだ。
〔3403〕私の恋は、今も悲しい。(草枕)多胡の入野の奥のように、行く末も悲しいことだ。
〔3404〕上野の安蘇の麻の束を抱きかかえるように、抱いて寝ても飽き足りないのを、どうしたらよいのだろう。
〔3405〕上野の乎度の多杼里の川沿いの道ででも、あの子は逢ってくれないものか。一人きりで。
意訳
上野国の相聞歌のはじめである。碓氷峠を越えて旅立つ夫が袖を振ってくれたと詠む妻の歌、今も先々も恋が悲しいという歌、麻の束を抱くように恋人を抱いて寝ても飽きないという歌、川沿いの道で一人でいる恋人に逢いたいという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 碓氷の山
- 上野と信濃の境の碓氷峠。
- 夫のが
- 「せなのが」。夫の。「な」は親愛の接尾語。
- まさか
- 今、現在。
- 多胡の入野
- 「たごのいりの」。上野国多胡郡の奥まった野。
- おく
- 奥。将来。
- 眞麻むら
- 「まそむら」。麻の束。
- 搔き抱き
- 「かきむだき」。抱きかかえて。
- 何どか
- 「あどか」。どうしようか。
- 逢はなも
- 逢ってほしい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3402〜3405番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。上野国の歌。
修辞
- 序詞
- 3403番の「草枕多胡の入野の」が「おく」を導く。3404番の「安蘇の眞麻むら」が「搔き抱き」を導く。
解説
3402番は、碓氷峠で旅立つ人が袖を振る別れの習俗を伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、534頁(コマ60)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、618頁(コマ73)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日