古典ライブラリー

万葉集 巻第十四 3393〜3397番

筑波嶺の 彼面此面に

作者未詳

常陸国の相聞歌十首の後半五首。母が番人を置くように守っていても魂は逢ってしまったという歌、小筑波嶺の山の岬のように忘れられたら心にかけないのにという歌、逢った夜は多くなったのにまた寝たいという歌、木の間から飛び立つ鳥のように目でだけお前を見るのかという歌、浪逆の海の玉藻は引けば切れるが二人の仲はどうして切れようかという歌。

常陸の浪逆の海で、玉藻が波に揺れている

題詞東歌(相聞)常陸國

  1. 1筑波つくは筑波つくはつくば嶺ね嶺ねねののの筑波禰乃3393
  2. 2彼面をても彼面をてもおても此面このも此面このもこのもににに乎氏毛許能母爾
  3. 3守部もりべ守部もりべもりべ居す居すすゑゑえ毛利敝須惠
  4. 4母はは母ははははいいい守も守ももれれれどもどもども波播已毛禮杼母
  5. 5魂たま魂たまたまぞぞぞ逢あ逢ああひひいにににけるけるける多麻曾阿比爾家留
  6. 6さささ衣ごろも衣ごろもごろもののの左其呂毛能3394
  7. 7小を小をお筑波づくは筑波づくはづくば嶺ね嶺ねねろろろののの乎豆久波禰呂能
  8. 8山やま山やまやまののの岬さき岬さきさき夜麻乃佐吉
  9. 9忘わす忘わすわすららら來こ來ここばばばこそこそこそ和須良許婆古曾
  10. 10汝な汝ななををを懸か懸かかけけけなはめなはめなわめ那乎可家奈波賣
  11. 11小を小をお筑波づくは筑波づくはづくばののの乎豆久波乃3395
  12. 12嶺ね嶺ねねろろろににに月つく月つくつく立た立たたししし禰呂爾都久多思
  13. 13逢あ逢ああひひいたたた夜よ夜よよははは安比太欲波
  14. 14多さはだ多さはださわだなりなりなりぬぬぬををを佐波太奈利努乎
  15. 15またまたまた寢ね寢ねねてててむむんかもかもかも萬多禰天武可聞
  16. 16小を小をお筑波つくは筑波つくはつくばののの乎都久波乃3396
  17. 17繁しげ繁しげしげききき木こ木ここののの間ま間ままよよよ之氣吉許能麻欲
  18. 18立た立たたつつつ鳥とり鳥とりとりののの多都登利能
  19. 19目め目めめゆゆゆかかか汝な汝ななををを見み見みみむむむ目由可汝乎見牟
  20. 20さささ寢ね寢ねねざらざらざらなくなくなくににに左禰射良奈久爾
  21. 21常陸ひたち常陸ひたちひたちなるなるなる比多知奈流3397
  22. 22浪逆なさか浪逆なさかなさかののの海うみ海うみうみののの奈左可能宇美乃
  23. 23玉たま玉たまたま藻も藻ももこそこそこそ多麻毛許曾
  24. 24引ひ引ひひけけけばばば絕た絕たたえええすれすれすれ比氣婆多延須禮
  25. 25何あ何ああどどどかかか絕た絕たたえええせせせむむん阿杼可多延世武

引用の仕方

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現代語訳

〔3393〕筑波嶺のあちらこちらに番人を置くように、母が見張っているけれど、魂は通い合ってしまったことだ。

〔3394〕(さ衣の)小筑波嶺の山の岬のように、忘れて来たならばこそ、お前を心にかけないでいようものを。

〔3395〕小筑波の嶺に月が改まり、逢った夜は数多くなったのに、また共寝をしたいものだ。

〔3396〕小筑波の茂った木の間から飛び立つ鳥のように、目でだけお前を見ることになるのか。共寝をしなかったわけではないのに。

〔3397〕常陸の浪逆の海の玉藻こそは、引けば切れもするが、二人の仲はどうして切れようか。

意訳

常陸国の相聞歌の後半である。母が見張っていても魂は通い合ったという歌、忘れられるなら心にかけないのにという歌、何度逢ってもまた逢いたいという歌、共寝した仲なのに目で見るだけになるのかという歌、玉藻は切れても二人の仲は切れないという歌である。

語釈・文法注

文法・本文

守部居ゑ
「もりべすゑ」。番人を置いて。
母い守れども
母が見張っているけれども。「い」は強意の助詞。
さ衣の
「小筑波」にかかる枕詞。
忘ら來ば
忘れて来たならば。
懸けなはめ
心にかけないだろう。「なは」は東国方言の打消。
月立し
「つくたし」。月が改まって。
多
「さはだ」。たくさん。
目ゆか
目でばかりか。
浪逆の海
「なさかのうみ」。常陸国の内海。今の霞ヶ浦あたり。
何どか
「あどか」。どうして。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十四・相聞・3393〜3397番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
東歌の相聞。作者未詳。常陸国の歌。

修辞

序詞
3393番の「筑波嶺の彼面此面に守部居ゑ」、3396番の「小筑波の繁き木の間よ立つ鳥の」、3397番の「常陸なる浪逆の海の玉藻こそ」。
方言
「月(つく)」「懸けなはめ」など。

解説

3393番は、母の監視をくぐって魂が逢うという、古代の霊魂観を伝える歌である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、533頁(コマ59)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、617頁(コマ72)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日