万葉集 巻第十四 3384〜3387番
葛飾の 眞間の手古名を
下総国の相聞歌四首。葛飾の真間の手児名を自分に寄せて噂するというのは本当かという歌、手児名がいたので真間の磯辺に波もとどろいたという歌、新嘗の祭りの夜でもいとしい人を外に立たせておけようかという歌、足音のしない馬がほしい、真間の継橋を絶えず通おうという歌。
場面イラスト(準備中)
題詞東歌(相聞)下總國
- 1葛飾葛飾かずしかののの可都思加能3384
- 2眞間眞間ままののの手古名手古名てこなををを麻末能手兒奈乎
- 3まことまことまことかもかもかも麻許登可聞
- 4吾吾われににに依依よすすすとととふふふ和禮爾余須等布
- 5眞間眞間ままののの手兒名手兒名てこなををを麻末乃氏胡奈乎
- 6葛飾葛飾かずしかののの可豆思賀能3385
- 7眞間眞間ままののの手兒名手兒名てこなががが麻萬能手兒奈我
- 8ありありありしかしかしかばばば安里之可婆
- 9眞間眞間ままののの磯磯おす邊邊ひににに麻末乃於須比爾
- 10波波なみもももとどろとどろとどろににに奈美毛登杼呂爾
- 11鳰鳰にお鳥鳥どりののの爾保杼里能3386
- 12葛飾葛飾かずしか早稻早稻わせををを可豆思加和世乎
- 13饗饗にえすすすともともとも爾倍須登毛
- 14其其そののの愛愛かなしきしきしきををを曾能可奈之伎乎
- 15外外とににに立立たてててめめめやもやもやも刀爾多氏米也母
- 16足足あののの音音おとせせせずずず安能於登世受3387
- 17行行ゆかかかむむん駒駒こまもももががが由可牟古馬母我
- 18葛飾葛飾かずしかののの可都思加乃
- 19眞間眞間ままののの繼繼つぎ橋橋はし麻末乃都藝波思
- 20やまやまやまずずず通通かよははわむむん夜麻受可欲波牟
現代語訳
〔3384〕葛飾の真間の手児名を、本当に私に寄せて噂しているというのか、あの真間の手児名を。
〔3385〕葛飾の真間の手児名が生きていたので、真間の磯辺に、波もとどろくように人が騒いだことだ。
〔3386〕(鳰鳥の)葛飾の早稲を神に供える新嘗の夜であっても、あのいとしい人を、外に立たせておけようか。
〔3387〕足音を立てずに行く馬がほしい。葛飾の真間の継橋を、絶えず通おう。
意訳
下総国葛飾の真間を舞台とする相聞歌である。伝説の美女手児名を自分に寄せて噂するのは本当かと喜ぶ歌、手児名のいた頃は真間の磯辺も人で騒がしかったという歌、新嘗の祭りで家に籠もるべき夜でも恋人を外に待たせはしないという女の歌、人に知られずに恋人のもとへ通いたいという歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 手古名・手兒名
- 「てこな」。真間に住んでいたという伝説の美女。
- 依すとふ
- 噂で関係づけるという。
- 磯邊
- 「おすひ」。「いそべ」の東国方言か。
- 鳰鳥の
- 「にほどりの」。「葛飾」にかかる枕詞。鳰が水に潜く(かづく)ことから。
- 饗す
- 「にへす」。新穀を神に供える。新嘗の祭り。
- 外に立てめやも
- 外に立たせておけようか、いや入れてやろう。
- 繼橋
- 「つぎはし」。板を継ぎ渡した橋。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3384〜3387番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。下総国の歌。
修辞
- 伝説
- 真間の手児名の伝説を背景にする。
- 反復
- 3384番は「眞間の手兒名を」をくり返す。
解説
真間の手児名は、多くの男に言い寄られて入水したと伝えられ、山部赤人(431〜433番)や高橋虫麻呂(1807・1808番)も詠んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、533頁(コマ59)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、616頁(コマ72)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日