万葉集 巻第十四 3374〜3377番
武藏野に 占肩灼き
武蔵国の相聞歌。鹿の肩骨を焼く占いに、口にしなかった君の名が出てしまったという歌、小岫の雉のように立ち別れた夜から夫に逢えないという歌、恋しければ袖を振ろうものを、朮の花のように顔色に出すなという歌、武蔵野の草のようにあなたの心のままに寄り添ってきたという歌。
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題詞東歌(相聞)武藏國
- 1武藏野武藏野むさしのににに武藏野爾3374
- 2占占うら肩肩へかた灼灼やききき宇良敝可多也伎
- 3眞實眞實まさでにににももも麻左氏爾毛
- 4告告のらららぬぬぬ君君きみががが名名な乃良奴伎美我名
- 5卜卜うらににに出出でにににけりけりけり宇良爾低爾家里
- 6武藏野武藏野むさしのののの武藏野乃3375
- 7小小お岫岫ぐきががが雉雉きぎし乎具奇我吉藝志
- 8立立たちちち別別わかれれれ多知和可禮
- 9往往いにににししし宵宵よいよりよりより伊爾之與比欲利
- 10夫夫せろろろににに逢逢あははわなふなふなうよよよ世呂爾安波奈布與
- 11戀戀こいしけしけしけばばば古非思家波3376
- 12袖袖そでももも振振ふらららむむんををを素氏毛布良武乎
- 13武藏野武藏野むさしのののの牟射志野乃
- 14朮朮うけらががが花花はなののの宇家良我波奈乃
- 15色色いろににに出出ずなななゆめゆめゆめ伊呂爾豆奈由米
- 16武藏野武藏野むさしのののの武藏野乃3377
- 17草草くさははは諸諸もろ向向むき久佐波母呂武吉
- 18彼彼かももも此此かくももも可毛可久母
- 19君君きみがががまにまにまにまにまにまに伎美我麻爾末爾
- 20吾吾わははは依依よりりりにににしししををを吾者余利爾思乎
現代語訳
〔3374〕武蔵野で鹿の肩骨を焼いて占うと、本当に口に出して告げもしなかったあなたの名が、占いに出てしまった。
〔3375〕武蔵野の小岫の雉が飛び立つように、立ち別れて行ってしまった夜から、夫に逢わないことだ。
〔3376〕恋しかったら袖でも振ろうものを。武蔵野の朮の花のように、顔色に出すな、決して。
〔3377〕武蔵野の草はあちらこちらに向いてなびくが、ああもこうも、あなたの心のままに、私は寄り添ってきたのに。
意訳
武蔵国の相聞歌である。鹿の骨を焼く占いに恋人の名が出てしまった驚き、雉が飛び立つように別れた夫に逢えない嘆き、恋心を朮の花のように顔に出すなという戒め、武蔵野の草がなびくように相手の思うままに従ってきたのにという恨みを詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 占肩灼き
- 「うらへかたやき」。鹿の肩骨を焼いて、そのひびで占う。
- 眞實
- 「まさで」。本当に。
- 小岫
- 「をぐき」。小さな山の洞、くぼみ。
- 雉
- 「きぎし」。きじ。
- 逢はなふよ
- 逢わないことよ。「なふ」は東国方言の打消。
- 朮
- 「うけら」。おけら。白い花をつける。
- 出なゆめ
- 「づなゆめ」。決して出すな。
- 諸向き
- 「もろむき」。あちらこちらに向いて。
- 彼も此も
- 「かもかくも」。ああもこうも。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十四・相聞・3374〜3377番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 東歌の相聞。作者未詳。武蔵国の歌。
修辞
- 序詞
- 3375番の「武藏野の小岫が雉」、3376番の「武藏野の朮が花の」。
- 方言
- 「逢はなふ」の「なふ」は東国の打消。
解説
3374番は、鹿の骨を焼く「太占(ふとまに)」の占いが東国でも行われていたことを伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、532頁(コマ59)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、615頁(コマ71)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日