万葉集 巻第十二 3211〜3212番
靈の緒の 現し心や
正気の心でいられようか、多くの楫を懸けて漕ぎ出す船に後に残されて、と女が言う。多くの楫を懸けて島に隠れて行ったら、妹が留まれと振る袖も見えなくなるだろうか、と男が答える。問答の歌。
場面イラスト(準備中)
題詞問答
現代語訳
〔3211〕(靈の緒の)正気の心でいられようか。多くの楫を懸けて漕ぎ出す船に、後に残されていて。
〔3212〕多くの楫を懸けて漕いで行き、島に隠れてしまったら、いとしい人が留まれと振るであろう袖も、見えなくなるだろうか。
意訳
問答の歌で、船出の別れのやりとりである。漕ぎ出す船に残されて正気でいられないという女の歌に、島陰に隠れたら留まれと振る妻の袖も見えなくなるだろうと男が答える。
語釈・文法注
文法・本文
- 靈の緒の
- 「現し心」にかかる枕詞。
- 現し心
- 「うつしごころ」。正気の心。
- 八十楫
- 「やそか」。多くの楫。
- 島隱り
- 島陰に隠れて。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3211〜3212番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 問答。作者未詳。
修辞
- 問答
- 「八十楫懸け」を受けて答える。
解説
3212番は、遠ざかる船から、岸で袖を振る妻の姿が見えなくなるのを惜しむ、船出の別れの情景である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、492頁(コマ39)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、569頁(コマ48)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日