万葉集 巻第十二 3167〜3170番
浪の間ゆ 雲居に見ゆる
波の間から遠く見える粟島のように、逢いもしないのに私と噂される子よ。眞若の浦の砂地のように絶え間なく恋い続ける。能登の海の漁火の光をたよりに月を待ちながら行く。志珂の海人の漁火のように、ほのかにでも妹を見る手立てがあればよい。島・浦・漁火に寄せた羈旅発思の歌四首。
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題詞(羈旅に思を發す)
- 1浪浪なみののの間間まゆゆゆ浪間從3167
- 2雲雲くも居居いににに見見みゆるゆるゆる雲位爾見
- 3粟島粟島あわしまののの粟島之
- 4逢逢あははわぬぬぬものものものゆゑゆゑゆえ不相物故
- 5吾吾わににに依依よするするする兒等兒等こら吾爾所依兒等
- 6衣衣ころも手手でののの衣袖之3168
- 7眞若眞若まわかののの浦浦うらののの眞若之浦之
- 8まなごぢまなごぢまなごじののの愛子地
- 9間間まなくなくなく時時ときなしなしなし間無時無
- 10吾吾わががが戀戀こふふうらくらくらくははは吾戀钁
- 11能登能登のとののの海海うみににに能登海爾3169
- 12釣釣つりするするする海人海人あまののの釣爲海部之
- 13漁漁いざり火火びののの射去火之
- 14光光ひかりにににいいい往往ゆくくく光爾伊往
- 15月月つき待待まちちちがてりがてりがてり月待香光
- 16志珂志珂しかののの白水郎白水郎あまののの思香乃白水郎乃3170
- 17釣釣つりすとすとすと燭燭ともせせせるるる釣爲燭有
- 18漁漁いざり火火びののの射去火之
- 19ほのかほのかほのかににに妹妹いもををを髣髴妹乎
- 20見見みむむむよしよしよしもももがががももも將見因毛欲得
現代語訳
〔3167〕波の間から遠く雲のかなたに見える粟島の名のように、逢いもしないのに、私と噂で結びつけられている子らよ。
〔3168〕(衣手の)眞若の浦の砂地のように、絶え間もなく時を選ばない、私の恋しく思う心は。
〔3169〕能登の海で釣りをする海人の漁火の光をたよりに行く。月の出を待ちながら。
〔3170〕志珂の海人が釣りをするとて灯している漁火のように、ほのかにでも、いとしい人を見る手立てがあればよいのに。
意訳
島・浦・漁火に寄せた羈旅発思の歌である。粟島の名にかけて逢いもしないのに噂で結びつけられる娘を思う歌、浦の砂地のように絶え間ない恋、漁火の光をたよりに月を待ちながら夜道を行く旅の歌、漁火のようにほのかにでも恋人を見たいという願いが並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 雲居
- 「くもゐ」。遠い空のかなた。
- 粟島
- 「あはしま」。「逢は」を導く。
- まなごぢ
- 細かい砂の地。白文は「愛子地」と書く。
- 漁火
- 「いざりび」。夜、魚を集めるために焚く火。
- がてり
- 〜しながら。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3167〜3170番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 羈旅発思(島・浦・漁火に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 3167番の上三句が「逢は」を、3168番の上三句が「間なく」を、3170番の上三句が「ほのか」を導く。
- 枕詞
- 3168番の「衣手の」。
解説
3169番は、漁火の明かりをたよりに月の出を待ちつつ夜の海辺を行く、旅の情景をよく伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、489頁(コマ37)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、565頁(コマ46)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日