古典ライブラリー

万葉集 巻第十二 3135〜3138番

近くあれば 名のみも聞きて

作者未詳

近くにいたので噂だけ聞いても心を慰めたが、今夜からは恋しさがますますつのるだろう。旅にいて恋うと苦しい、いつ都に行ってあなたに逢えるだろう。遠く離れて姿は見えないが、いつものような妹の笑顔は面影に浮かぶ。年も経たずに帰って来るだろうと朝影のようにやせて待つ妹が面影に見える。羈旅発思の歌四首。

旅の宿で、男が都に残した妻の笑顔を思い浮かべている

題詞(羈旅に思を發す)

  1. 1近ちか近ちかちかくくくあれあれあればばば近有者3135
  2. 2名な名ななのみのみのみももも聞き聞きききききててて名耳毛聞而
  3. 3慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめつつつ名種目津
  4. 4今こ今ここ夜よひ夜よひよいゆゆゆ戀こひ戀こひこいののの今夜從戀乃
  5. 5いやいやいや益まさ益まさまさりりりなむなむなん益益南
  6. 6旅たび旅たびたびににに在あ在あありりりててて客在而3136
  7. 7戀こ戀ここふれふれうればばば苦くる苦くるくるししし戀者辛苦
  8. 8いついついつしかしかしかももも何時毛
  9. 9京みやこ京みやこみやこににに行ゆ行ゆゆきききててて京行而
  10. 10君きみ君きみきみががが目め目めめををを見み見みみむむむ君之目乎將見
  11. 11遠とほ遠とほとおくくくあれあれあればばば遠有者3137
  12. 12光儀すがた光儀すがたすがたははは見み見みみえええずずず光儀者不所見
  13. 13常つね常つねつねののの如ごと如ごとごと如常
  14. 14妹いも妹いもいもがががゑまひゑまひえまいははは妹之咲者
  15. 15面おも面おもおも影かげ影かげかげにににしししててて面影爲而
  16. 16年とし年としとしももも經へ經へへずずず年毛不歷3138
  17. 17歸かへ歸かへかえりりり來こ來ここなむなむなむととと反來嘗跡
  18. 18朝あさ朝あさあさ影かげ影かげかげににに朝影爾
  19. 19待ま待ままつつつらむらむらん妹いも妹いもいもががが將待妹之
  20. 20面おも面おもおも影かげ影かげかげににに見み見みみゆゆゆ面影所見

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔3135〕近くにいたので、噂だけでも聞いて心を慰めていた。今夜からは恋しさが、いよいよつのるだろう。

〔3136〕旅にあって恋い慕っていると苦しい。いつになったら都に行って、あなたに逢えるだろう。

〔3137〕遠く離れているので姿は見えないけれど、いつものようないとしい人の笑顔は、面影に浮かんでいて。

〔3138〕年も経たないうちに帰って来るだろうと、朝影のようにやせて待っているであろういとしい人が、面影に見えることだ。

意訳

羈旅発思の歌の続きである。近くにいた時は噂だけでも慰められたが、旅立った今夜からは恋しさがつのるという歌、都の恋人に早く逢いたい女の歌、遠く離れても妻の笑顔が面影に浮かぶ歌、やせ細って帰りを待つ妻の姿が面影に見える歌が並ぶ。

語釈・文法注

文法・本文

名のみ
噂だけ。
今夜ゆ
今夜から。
君が目を見む
あなたに逢おう。
ゑまひ
笑顔。白文は「咲」と書く。
朝影
朝日に映る細長い影。やせた姿のたとえ。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十二・相聞・3135〜3138番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
羈旅発思。作者未詳。

修辞

反復
3137・3138番は「面影」をくり返す。

解説

3137・3138番は、旅先で妻の面影を見る歌で、離れた夫婦の思いを素直に詠んでいる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、487頁(コマ36)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、562頁(コマ45)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日