万葉集 巻第十二 3091〜3094番
鴨すらも 己がつまどち
鴨でさえ夫婦連れで餌をあさり、遅れる間にも恋しがるというのに。菅鳥が妹を恋うのか、眠れずにいる。小竹に来て鳴く鳥のように、気安く思って人妻を恋してしまった。物思いに眠れずに起きた明け方には、鶏までもわびしげに鳴く。鳥に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1鴨鴨かもすらすらすらももも鴨尙毛3091
- 2己己おのがががつまどちつまどちつまどち己之妻共
- 3求食求食あさりしししててて求食爲而
- 4後後おくるるるるるる程程ほどににに所遺間爾
- 5戀戀こふふうとととふふふものものものををを戀云物乎
- 6白白しら檀檀ま弓弓ゆみ白檀3092
- 7斐太斐太ひだののの細細ほそ江江えののの斐太乃細江之
- 8菅菅すが鳥鳥どりののの菅鳥乃
- 9妹妹いもににに戀戀こふれふれうれややや妹爾戀哉
- 10寢寢いををを宿宿ねかねかねかねつるつるつる寢宿金鶴
- 11小竹小竹しぬののの上上うえににに小竹之上爾3093
- 12來來き居居いててて鳴鳴なくくく鳥鳥とり來居而鳴鳥
- 13目目めををを安安やすみみみ目乎安見
- 14人人ひと妻妻づまゆゑゆゑゆえににに人妻姤爾
- 15吾吾われ戀戀こひひいにににけりけりけり吾戀二來
- 16物物もの思思もふふうととと物念常3094
- 17宿宿いねねねずずず起起おきききたるたるたる不宿起有
- 18朝朝あさけけけにににははは旦開者
- 19佗佗わびびびててて鳴鳴なくくくなりなりなり和備氐鳴成
- 20鷄鷄にわつとりさへさへさへ鷄左倍
現代語訳
〔3091〕鴨でさえも、夫婦連れで餌をあさっていて、取り残されるわずかの間にも恋しがるというのに。
〔3092〕(白檀弓)斐太の細江の菅鳥が妻を恋うて鳴くように、私もいとしい人を恋しく思うからか、眠れずにいることだ。
〔3093〕小竹の上に来て鳴く鳥のように、見た目に気安く思って、人妻ゆえに、私は恋してしまった。
〔3094〕物思いをして眠らずに起きている明け方には、わびしそうに鳴いているよ、鶏までも。
意訳
鳥に寄せた歌の続きである。鴨でさえつがいで少し離れても恋しがるのにという歌、菅鳥が妻を恋うように眠れない歌、気安く思った人妻に恋してしまった歌、物思いに眠れなかった夜明けに鶏までもわびしげに鳴くという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- つまどち
- 夫婦連れ。
- 求食
- 「あさり」。餌をあさること。
- 白檀弓
- 「しらまゆみ」。「斐太」にかかる枕詞。
- 目を安み
- 見た目に気安いので。
- 鷄
- 「にはつとり」。鶏。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3091〜3094番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(鳥に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 3092番の上三句、3093番の上二句が下の句を導く。
解説
3094番は、眠れぬ夜を過ごした自分の心が、夜明けの鶏の声までわびしく聞かせるという、心情の投影を詠んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、483頁(コマ34)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、557頁(コマ42)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日