万葉集 巻第十二 3087〜3090番
眞菅よし 宗我の河原に
宗我の河原に鳴く千鳥のように絶え間ない、わが恋は。奈良山に鳴く鳥のように絶え間なく時もない、わが恋は。獵道の池に住む鳥のように、立っても座っても君を思う。葦辺を行く鴨の羽音のように噂ばかり聞いて、むやみに恋い続ける。鳥に寄せた歌四首。
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題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1眞眞ま菅菅すがよしよしよし眞菅吉3087
- 2宗我宗我そがののの河河かわ原原らににに宗我乃河原爾
- 3鳴鳴なくくく千千ち鳥鳥どり鳴千鳥
- 4間間ま無無なししし吾吾わが背背せ子子こ間無吾背子
- 5吾吾わががが戀戀こふふうらくらくらくははは吾戀者
- 6戀戀こい衣衣ごろも戀衣3088
- 7著著き奈良奈良ならののの山山やまににに著楢乃山爾
- 8鳴鳴なくくく鳥鳥とりののの鳴鳥之
- 9間間ま無無なくくく時時とき無無なししし間無時無
- 10吾吾わががが戀戀こふふうらくらくらくははは吾戀良苦者
- 11遠遠とおつつつ人人ひと遠津人3089
- 12獵獵かり道道じののの池池いけににに獵道之池爾
- 13住住すむむむ鳥鳥とりののの住鳥之
- 14立立たちちちてててももも居居いてててももも立毛居毛
- 15君君きみをををしししぞぞぞ念念おもふふう君乎之曾念
- 16葦葦あし邊邊べゆくゆくゆく葦邊徃3090
- 17鴨鴨かもののの羽羽は音音おとののの鴨之羽音之
- 18聲聲おとのみのみのみににに聲耳
- 19聞聞ききききつつつつつつもとなもとなもとな聞管本名
- 20戀戀こひひいわたるわたるわたるかもかもかも戀度鴨
現代語訳
〔3087〕(眞菅よし)宗我の河原に鳴く千鳥のように、絶え間がない、あなた。私の恋しく思う心は。
〔3088〕(戀衣)奈良の山に鳴く鳥のように、絶え間もなく、時の区別もない。私の恋しく思う心は。
〔3089〕(遠つ人)獵道の池に住む鳥のように、立っていても座っていても、あなたのことばかり思う。
〔3090〕葦辺を行く鴨の羽音のように、噂ばかりを聞いて、むやみに恋い続けることだ。
意訳
鳥に寄せた歌である。河原の千鳥のように絶え間なく恋う歌、山の鳥のように時を選ばず恋う歌、池の水鳥が立ったり居たりするように、立っても座っても恋人を思う歌、鴨の羽音のように噂だけ聞いて恋い続ける歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 眞菅よし
- 「宗我」にかかる枕詞。
- 戀衣著
- 恋の衣を着る意で「奈良」にかかる枕詞。
- 遠つ人
- 「獵道」(かり=雁)にかかる枕詞。
- もとな
- むやみに。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3087〜3090番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(鳥に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 各首の上句が、鳥の様子から「間無し」「立ちても居ても」「聲」を導く。
- 枕詞
- 「眞菅よし」「戀衣著」「遠つ人」。
解説
3087・3088番は同じ結句を持ち、鳥の絶え間ない鳴き声を恋心にたとえる類歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、482頁(コマ34)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、557頁(コマ42)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日