万葉集 巻第十二 3071〜3074番
丹波道の 大江の山の
大江山の玉葛のように、絶えようという心は私にはない。大埼の荒磯の渡しに這う葛のように、行方もなく恋い続けるのか。白月山のさな葛のように、後にも必ず逢おうと思う。唐棣の花の色のように移ろいやすい心だから、年を過ごしてしまった、便りは絶えないで。葛・花に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1丹波丹波たにわ道道じののの丹波道之3071
- 2大江大江おおえののの山山やまののの大江乃山之
- 3眞眞ま玉玉たま葛葛づら眞玉葛
- 4絕絕たえええむむんののの心心こころ絕牟乃心
- 5我我わががが思思おもははわなくなくなくににに我不思
- 6大埼大埼おおさきののの大埼之3072
- 7荒荒あり磯磯そののの渡渡わたり有礒乃渡
- 8延延はふふう葛葛くずののの延久受乃
- 9行行ゆく方方へももも無無なくくくややや往方無哉
- 10戀戀こひひいわたりわたりわたりなむなむなん戀渡南
- 11木綿木綿ゆう裹裹づつみ木綿裹3073
- 12白月白月しらつき山山やまののの白月山之
- 13さなさなさな葛葛かずら佐奈葛
- 14後後のちもももかならずかならずかならず後毛必
- 15逢逢あははわむむんとととぞぞぞ念念おもふふう將相等曾念
- 16唐棣花唐棣花はねず色色いろののの唐棣花色之3074
- 17移移うつろひろひろい易易やすききき移安
- 18情情こころあれあれあればばば情有者
- 19年年としをををぞぞぞ來經來經きふるるる年乎曾寸經
- 20言言ことははは絕絕たえええずずずててて事者不絕而
現代語訳
〔3071〕丹波路の大江の山の玉葛のように、仲が絶えようなどという心は、私には思いもよらないのに。
〔3072〕大埼の荒磯の渡しに這う葛のように、行方も知れないままに、恋い続けるのだろうか。
〔3073〕(木綿裹)白月山のさな葛のように、後にも必ず逢おうと思うことだ。
〔3074〕唐棣の花の色のように移ろいやすい心があるので、年月を過ごしてしまった。便りは絶えないままで。
意訳
葛と花に寄せた歌である。葛のように長く続いて仲が絶えることなど思わないという歌、行方も知れず恋い続ける歌、後に必ず逢おうという誓い、唐棣の花のように移ろいやすい相手の心のせいで、便りだけは絶えず逢えないまま年を過ごしたという嘆きが並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 丹波道
- 「たにはぢ」。丹波へ行く道。
- 眞玉葛
- 「またまづら」。葛の美称。
- 渡
- 「わたり」。渡し場。
- 木綿裹
- 「ゆふづつみ」。「白」にかかる枕詞。
- 唐棣花色
- 「はねずいろ」。あせやすい淡紅色。
- 來經る
- 「きふる」。過ごしてきた。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3071〜3074番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(葛・花に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 3071〜3073番の上三句が「絕え」「行方」「後」を、3074番の上二句が「移ろひ」を導く。
解説
葛のつるが長く伸び続ける性質は、絶えることのない恋や二人の仲のたとえとして、くり返し詠まれている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、481頁(コマ33)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、555頁(コマ41)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日