万葉集 巻第十二 3063〜3066番
淺茅原 小野に標結ふ
浅茅原の小野に標を結うような空約束でも、逢おうと言ってください、恋の慰めに。人がみな笠に縫う有間菅のように、ずっと生きて後にも逢おうと思う。吉野の蜻蛉の小野に刈る草のように思い乱れて寝る夜が多い。三笠の山の山菅のように絶えず恋い続けるのか、命が尽きないなら。草・菅に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1淺淺あさ茅茅じ原原はら淺茅原3063
- 2小小お野野ぬににに標標しめ結結ゆふふう小野爾標結
- 3空空むな言言ことももも空言毛
- 4逢逢あははわむむんととと聞聞きこせせせ將相跡令聞
- 5戀戀こいののの慰慰なぐさににに戀之名種爾
- 6人人ひと皆皆みなののの人皆之3064
- 7笠笠かさににに縫縫ぬふふうとととふふふ笠爾縫云
- 8有間有間ありま菅菅すげ有間菅
- 9在在ありりりててて後後のちにににももも在而後爾毛
- 10逢逢あははわむむんとととぞぞぞ思思おもふふう相等曾念
- 11みみみ吉野吉野よしぬののの三吉野之3065
- 12蜻蛉蜻蛉あきつののの小小お野野ぬににに蜻乃小野爾
- 13刈刈かるるる草草かやののの苅草之
- 14思思おもひひい亂亂みだれれれててて念亂而
- 15ぬるぬるぬる夜夜よしししぞぞぞ多多おおききき宿夜四曾多
- 16妹妹いも待待まつつつととと妹待跡3066
- 17三笠三笠みかさののの山山やまののの三笠乃山之
- 18山山やま菅菅すげののの山菅之
- 19止止やまままずずずややや戀戀こひひいむむん不止八將戀
- 20命命いのち死死しなななずずずははは命不死者
現代語訳
〔3063〕浅茅原の小野に標を結うような空約束でも、逢おうとおっしゃってください。恋の慰めに。
〔3064〕世の人みなが笠に縫うという有間菅のように、こうして生きていて、後にでも逢おうと思うことだ。
〔3065〕吉野の蜻蛉の小野で刈る草のように、思い乱れて寝る夜が多いことだ。
〔3066〕いとしい人を待つとて三笠の山の山菅のように、絶えず恋い続けるのだろうか。命が尽きないならば。
意訳
草と菅に寄せた歌である。空約束でもよいから逢おうと言ってほしいという女の歌、有間菅の名にかけて生き長らえて後に逢おうという歌、刈った草のように思い乱れて寝る夜が多い歌、山菅のように絶えず恋い続けるのかという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 空言
- 「むなこと」。空約束。
- 聞こせ
- おっしゃってください。
- 慰
- 「なぐさ」。慰め。白文は「名種」と書く。
- 有間菅
- 摂津の有馬の菅。「在り」を導く。
- 蜻蛉の小野
- 「あきつのをぬ」。吉野の地名。
- 草
- 「かや」。屋根を葺く草。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3063〜3066番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(草・菅に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 各首の上句が、草や菅から「空言」「在り」「思ひ亂れ」「止まず」を導く。
解説
3063番は、たとえ嘘でもよいから逢おうと言ってほしいという、恋する女の切ない願いを詠んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、481頁(コマ33)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、554頁(コマ41)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日