万葉集 巻第十二 3045〜3047番
朝霜の 消ぬべくのみや
朝霜のように消えそうな思いで、絶えず命をかけて思い続けるのか。さざ波が越す安暫に降る小雨のように、間を置いて思うことはないのに。神々しく巌に生える松の根のように、君の心は忘れられない。霜・雨・松に寄せた歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1朝朝あさ霜霜しもののの朝霜乃3045
- 2消消けぬぬぬべくべくべくのみのみのみややや可消耳也
- 3時時とき無無なしししににに時無二
- 4思思おもひひいわたらわたらわたらむむん思將度
- 5氣氣いきののの緒緒をにににしししててて氣之緒爾爲而
- 6小浪小浪さざなみののの左佐浪之3046
- 7波波なみ越越こすすす安暫安暫あざににに波越安暫仁
- 8降降ふるるる小雨小雨こさめ落小雨
- 9間間あいだももも置置おきききててて間文置而
- 10吾吾わががが念念おもははわなくなくなくににに吾不念國
- 11神神かむさびさびさびててて神左備而3047
- 12巖巖いわおににに生生おふるふるうる巖爾生
- 13松松まつががが根根ねののの松根之
- 14君君きみががが心心こころははは君心者
- 15忘忘わすれれれかねかねかねつつつももも忘不得毛
現代語訳
〔3045〕朝霜のように消えてしまいそうな思いでばかり、絶え間なく思い続けるのだろうか。命をかけて。
〔3046〕さざ波が越す安暫に降る小雨のように、途切れ途切れに間を置いて私が思うことなどないのに。
〔3047〕神々しく巌に生える松の根のように、どっしりと変わらないあなたの心は、忘れられないことだ。
意訳
霜・雨・松に寄せた歌である。朝霜のように消えそうな思いで命をかけて恋い続ける歌、途切れがちに降る小雨とは違って絶え間なく思っているという歌、巌に根を張る松のように変わらない恋人の心が忘れられない歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 氣の緒にして
- 「いきのをにして」。命をかけて。
- 安暫
- 「あざ」。地名か。所在未詳。
- 小雨
- 「こさめ」。小雨。
- 神さびて
- 神々しく古びて。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3045〜3047番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(霜・雨・松に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 3046番の上三句が「間」を、3047番の上三句が「心」を導く。
解説
3047番は、巌に根を張る松の不動の姿に、恋人の変わらぬ心を重ねている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、479頁(コマ32)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、553頁(コマ40)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日