万葉集 巻第十二 3038〜3041番
斯く戀ひむ ものと知りせば
これほど恋しくなると知っていたら、夕べに置いて朝には消える露であればよかった。夕べに置いて朝に消える白露のように、消えてしまいそうな恋を私はする。後にきっと妹に逢おうと、朝露のようにはかない命を生きている、恋は激しいけれど。毎朝草の上に白く置く露のように、消えるなら一緒にと言った君よ。露に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1斯斯かくくく戀戀こひひいむむん如此將戀3038
- 2ものものものととと知知しりりりせせせばばば物等知者
- 3夕夕ゆうべ置置おきききててて夕置而
- 4朝朝あしたははは消消きゆるゆるゆる旦者消流
- 5露露つゆならならならましましましををを露有申尾
- 6夕夕ゆうべ置置おきききててて暮置而3039
- 7朝朝あしたははは消消きゆるゆるゆる旦者消流
- 8白白しら露露つゆののの白露之
- 9消消けぬぬぬべきべきべき戀戀こいももも可消戀毛
- 10吾吾われはははするするするかもかもかも吾者爲鴨
- 11後後のちつひつひついににに後遂爾3040
- 12妹妹いもににに逢逢あははわむむんととと妹將相跡
- 13朝朝あさ露露つゆののの旦露之
- 14命命いのちははは生生いけけけりりり命者生有
- 15戀戀こいははは繁繁しげけどけどけど戀者雖繁
- 16朝朝あさなななさささななな朝旦3041
- 17草草くさののの上上うえ白白しろくくく草上白
- 18置置おくくく露露つゆののの置露乃
- 19消消けなななばばば共共ともにににととと消者共跡
- 20いひいひいいししし君君きみはははももも云師君者毛
現代語訳
〔3038〕これほど恋い焦がれるものだと知っていたなら、夕べに置いて朝には消える露であったらよかったのに。
〔3039〕夕べに置いて朝には消える白露のように、消えてしまいそうな恋を、私はすることだ。
〔3040〕後には必ずいとしい人に逢おうと思って、朝露のようにはかない命を生きている。恋の思いは激しいけれど。
〔3041〕毎朝草の上に白く置く露のように、消えるならば一緒にと言ったあなたは、どうしているのか。
意訳
露に寄せた歌である。これほど恋に苦しむなら、はかなく消える露であればよかったという歌、白露のように消えてしまいそうな恋、後に逢えると信じて朝露のようなはかない命を生きる歌、死ぬなら一緒にと言った恋人を思う歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 夕置きて
- 夕べに置いて。
- 消ぬべき
- 「けぬべき」。消えてしまいそうな。
- つひに
- 最後には、必ず。
- 朝なさな
- 毎朝。
- 君はも
- あなたはどうしているのか。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3038〜3041番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(露に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 3039番の上三句、3041番の上三句が「消」を導く。
- 比喩
- 露を、はかない命や恋のたとえとする。
解説
3041番の「消なば共に」は、死ぬ時は一緒にという恋人の誓いの言葉を、露のはかなさに重ねている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、479頁(コマ32)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、552頁(コマ40)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日