万葉集 巻第十二 3013〜3016番
吾妹子や 吾を忘らすな
いとしい人よ、私を忘れないで、布留河の流れが絶えると思うか。神山の麓を響かせて流れる水の水脈が絶えなければ、後も私の妻だ。雷のように聞こえる滝の白波のように、顔を知るだけの君が見えないこの頃。山河の滝に勝る激しい恋をしていると人に知られた、絶え間なく思うので。河・水・滝に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1吾吾わぎ妹妹も子子こややや吾妹兒哉3013
- 2吾吾あををを忘忘わすらららすすすななな安乎忘爲莫
- 3石上石上いそのかみ石上
- 4袖袖そで布留布留ふる河河かはののの袖振河之
- 5絕絕たえええむむんととと念念おもへへえややや將絕跡念倍也
- 6神神かみ山山やまののの神山之3014
- 7山山やま下下した響響とよみみみ山下響
- 8行行ゆくくく水水みずののの逝水之
- 9水脈水脈みおししし絕絕たえええずずずははは水尾不絕者
- 10後後のちももも吾吾わががが妻妻つま後毛吾妻
- 11雷雷かみののの如如ごと如神3015
- 12聞聞きこゆるゆるゆる瀧瀧たぎののの所聞瀧之
- 13白白しら浪浪なみののの白浪乃
- 14面面おも知知しるるる君君きみががが面知君之
- 15見見みえええぬぬぬ此此こののの頃頃ごろ不所見比日
- 16山山やま河河がわののの山河之3016
- 17瀧瀧たぎににに益益まされれれるるる瀧爾益流
- 18戀戀こいすすすとととぞぞぞ戀爲登曾
- 19人人ひと知知しりりりにににけるけるける人知爾來
- 20間間ま無無なくくく念念おもへへえばばば無間念者
現代語訳
〔3013〕いとしい人よ、私を忘れないでおくれ。石上の袖布留河の流れのように、絶えようと思うだろうか。
〔3014〕神山の麓を響かせて流れていく水の水脈が絶えないように、二人の仲が絶えなければ、後々までも私の妻だ。
〔3015〕雷のように音高く聞こえる滝の白波のように、顔だけは知っているあなたが、見えないこの頃であることよ。
〔3016〕山河の滝よりも激しい恋をしていると、人に知られてしまった。絶え間なく思っているので。
意訳
河・水・滝に寄せた歌である。布留河の流れのように仲は絶えないから忘れないでという歌、水脈が絶えなければ後々まで妻だという誓い、滝の白波のように顔だけは知る人が見えない嘆き、滝よりも激しい恋が人に知られてしまった歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 忘らすな
- 忘れなさるな。
- 袖布留河
- 袖を振る意から「布留」にかかる。
- 神山
- 「かみやま」。三輪山とも。
- 水脈
- 「みを」。水の流れる筋。
- 面知る
- 顔だけは知っている。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3013〜3016番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(河・水・滝に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 3013番の第三・四句、3014番の上三句、3015番の上三句が下の句を導く。
- 比較
- 3016番は恋の激しさを滝と比べる。
解説
3016番は、滝の激しさを恋にたとえ、絶え間ない恋心がおのずと人に知られてしまうことを詠んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、477頁(コマ31)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、550頁(コマ39)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日