万葉集 巻第十二 3003〜3007番
夕月夜 五更闇の
暁の闇のようにぼんやり見ただけの人のために恋い続ける。空に照る日が消える日にこそ私の恋は止むだろう。満月のように高々と待っていた君を迎えたからには、もう何を思おう。月夜がよいので門に出て足占をして行く時さえ、妹に逢えないのか。夜空を渡る月の清らかなうちに、君の姿をよく見ておけばよかった。月と日に寄せた歌五首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1夕夕ゆう月月づく夜夜よ夕月夜3003
- 2五更闇五更闇あかときやみののの五更闇之
- 3おほほしくおほほしくおほほしく不明
- 4見見みししし人人ひとゆゑゆゑゆえににに見之人故
- 5戀戀こひひいわたるわたるわたるかもかもかも戀渡鴨
- 6ひさかたひさかたひさかたののの久堅之3004
- 7天天あまつつつみみみ空空そらににに天水虛爾
- 8照照てれれれるるる日日ひののの照日之
- 9失失うせせせなむなむなん日日ひこそこそこそ將失日社
- 10吾吾わががが戀戀こい止止やまままめめめ吾戀止目
- 11望望もちののの日日ひににに十五日3005
- 12出出いでででにににししし月月つきののの出之月乃
- 13高高たか高高だかににに高高爾
- 14君君きみををを坐坐いませせせててて君乎座而
- 15何何なにをををかかか思思おもははわむむん何物乎加將念
- 16月月つく夜夜よよみよみよみ月夜好3006
- 17門門かどににに出出いででで立立たちちち門爾出立
- 18足足あ占占うらしししててて足占爲而
- 19往往ゆくくく時時ときさへさへさへややや往時禁八
- 20妹妹いもににに逢逢あははわざらざらざらむむん妹二不相有
- 21ぬばたまぬばたまぬばたまののの野干玉3007
- 22夜夜よ渡渡わたるるる月月つきののの夜渡月之
- 23淸淸さやけくけくけくははは淸者
- 24よくよくよく見見みてててましましましををを吉見而申尾
- 25君君きみががが光儀光儀すがたををを君之光儀乎
現代語訳
〔3003〕夕月夜の暁の闇のように、ぼんやりとほのかに見ただけの人のために、恋い続けることだ。
〔3004〕(ひさかたの)天空に照る日が消えてなくなる日にこそ、私の恋は止むだろう。
〔3005〕満月の日に出た月が高く昇るように、首を長くして待っていたあなたをお迎えしたからには、もう何を思うことがあろう。
〔3006〕月夜がよいので、門に出て立ち、足占をして出かけて行く時でさえ、いとしい人に逢えないのだろうか。
〔3007〕(ぬばたまの)夜空を渡る月が清らかなうちに、よく見ておけばよかった。あなたの姿を。
意訳
月と日に寄せた歌である。ほのかに見ただけの人に恋い続ける歌、空の日が消える日まで恋は止まないという誓い、待ちに待った恋人を迎えた満ち足りた喜び、足占で吉と出たのに逢えないのかという嘆き、月明かりの中で恋人の姿をよく見ておけばよかったという後悔が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 五更闇
- 「あかときやみ」。夜明け前の闇。
- おほほしく
- ぼんやりと。白文は「不明」と書く。
- 望の日
- 「もちのひ」。満月の日。白文は「十五日」と書く。
- 坐せて
- 「いませて」。おいでいただいて。
- 足占
- 「あうら」。歩数で吉凶を占うこと。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・3003〜3007番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(月・日に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 3003番の上二句が「おほほしく」を、3005番の上二句が「高高」を導く。
- 誇張
- 3004番の「照れる日の失せなむ日」。
解説
3006番の足占は、歩きながら一歩ごとに吉・凶と唱え、目的の場所に着いた時の言葉で占う方法である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、477頁(コマ31)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、549頁(コマ38)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日