万葉集 巻第十二 2995〜2998番
逢ふよしの 出で來むまでは
逢う手立てができるまでは、畳薦を重ねて編む目の数ほど夢に見よう。白髪のような木綿は花のように散りやすいが、その言葉はいつまでも忘れられない。布留の高橋のように首を長くして妹が待っているだろう、夜が更けてしまった。湊に入る葦分け小舟のように差し障りが多いが、今行くから、来ないなどと思うな。薦・木綿・橋・舟に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1逢逢あふふうよしよしよしののの相因之2995
- 2出出いででで來來こむむむまでまでまでははは出來左右者
- 3疊疊たたみ薦薦こも疊薦
- 4重重かさねねね編編あむむむ數數かず重編數
- 5夢夢いめにににししし見見みてててむむん夢西將見
- 6しらがしらがしらが付付つくくく白香付2996
- 7木綿木綿ゆうははは花物花物はなもの木綿者花物
- 8言言ことこそこそこそははは事社者
- 9何時何時いつののの眞眞さ枝枝えだももも何時之眞枝毛
- 10常常つね忘忘わすらえらえらえねねね常不所忘
- 11石上石上いそのかみ石上2997
- 12布留布留ふるののの高高たか橋橋はし振之高橋
- 13高高たか高高だかににに高高爾
- 14妹妹いもががが待待まつつつらむらむらん妹之將待
- 15夜夜よぞぞぞふけふけふけにににけるけるける夜曾深去家留
- 16湊湊みなと入入いりののの湊入之2998
- 17葦葦あし別別わけ小小お船船ぶね葦別小舩
- 18障障さわり多多おおみみみ障多
- 19いまいまいま來來こむむむ吾吾われををを今來吾乎
- 20不通不通よどむむむととと思思おもふふうななな不通跡念莫
現代語訳
〔2995〕逢う手立てが出てくるまでは、畳薦を重ねて編む目の数ほどに、夢の中で逢っていよう。
〔2996〕(しらが付く)木綿は花のように移ろいやすいものだが、あなたの言葉こそは、いつまでも忘れられないことだ。
〔2997〕石上の布留の高橋のように、首を長くして、いとしい人が待っているだろう。夜が更けてしまったことだ。
〔2998〕湊に入る葦分け小舟のように差し障りが多いけれど、今すぐ行こうとする私を、ためらっているなどと思わないでください。
意訳
薦・木綿・橋・舟に寄せた歌である。逢えるまでは畳薦の編み目の数ほど夢で逢おうという歌、恋人の言葉はいつまでも忘れられない歌、高橋のように首を長くして待つ恋人を思い夜更けを嘆く男の歌、差し障りは多くても今すぐ行くから来ないと思うなという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 疊薦
- 畳にする薦。「重ね編む」にかかる。
- しらが付く
- 白髪のような。「木綿」にかかる枕詞。
- 花物
- 「はなもの」。花のように移ろいやすいもの。
- 眞枝
- 「さえだ」。枝。
- 布留
- 大和の石上の地名。
- 不通む
- 「よどむ」。ためらう。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・2995〜2998番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(薦・木綿・橋・舟に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 2997番の上二句が「高高」を、2998番の上二句が「障」を導く。
解説
2998番は、2745番の「湊入りの葦わけ小舟」と同じ句を用いながら、差し障りがあっても必ず行くと言い切っている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、476頁(コマ31)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、549頁(コマ38)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日