万葉集 巻第十二 2932〜2935番
情には 燃えておもへど
心では燃えるように思うが、人目が多いので妹に逢えない。君は思ってくれないが、私は片恋に恋い慕う、君の姿を。目では見飽きないことはないが、手を取って語り合えないのも苦しい。年月長くいつまで恋い続けるのか、命の長さも知らずに。正述心緒の歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1情情こころにににははは情庭2932
- 2燃燃もえええててておもへおもへおもえどどど燎而念杼
- 3うつせみうつせみうつせみののの虛蟬之
- 4人人ひと目目めををを繁繁しげみみみ人目乎繁
- 5妹妹いもににに逢逢あははわぬぬぬかもかもかも妹爾不相鴨
- 6相相あい思思おもははわずずず不相念2933
- 7君君きみははは坐坐まさささめめめどどど公者雖座
- 8片片かた戀戀こいににに肩戀丹
- 9吾吾われはははぞぞぞ戀戀こふるふるうる吾者衣戀
- 10君君きみががが光儀光儀すがたををを君之光儀
- 11うまさはふうまさはふうまさわう味澤相2934
- 12目目めにににははは飽飽あけけけどもどもども目者非不飽
- 13携携たずさはりはりわり携
- 14問問とはははれれれぬぬぬことことことももも不問事毛
- 15苦苦くるしかりしかりしかりけりけりけり苦勞有來
- 16あらたまあらたまあらたまののの璞之2935
- 17年年としののの緒緒を永永ながくくく年緒永
- 18何時何時いつまでまでまでかかか何時左右鹿
- 19我我わががが戀戀こひひい居居おらららむむん我戀將居
- 20壽壽いのち知知しらららずずずててて壽不知而
現代語訳
〔2932〕心の中では燃えるように思っているけれど、(うつせみの)人目が多いので、いとしい人に逢えないことだ。
〔2933〕あなたは私を思っていらっしゃらないけれど、片思いに私は恋い慕っている。あなたの姿を。
〔2934〕(うまさはふ)目では見飽きるほど見ているけれど、手を取り合って語り合えないことも、苦しいことだ。
〔2935〕(あらたまの)年月長く、いつまで私は恋い続けるのだろう。命の長さもわからないのに。
意訳
正述心緒の歌の続きである。心では燃えるように思っても人目が多くて逢えない歌、相手が思ってくれなくても片思いで恋い続ける歌、顔は見ていても手を取り合って語らえない苦しさ、いつまで恋い続けるのか、命の長さも知れないのにという嘆きが並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 燃えておもへど
- 燃えるように思うけれど。白文は「燎而」と書く。
- 坐さめど
- いらっしゃるだろうが。
- うまさはふ
- 「目」にかかる枕詞。
- 携はり
- 「たづさはり」。手を取り合って。
- 壽
- 「いのち」。命。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・2932〜2935番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 「うつせみの」「うまさはふ」「あらたまの」を用いる。
解説
2934番は、姿は見られても言葉を交わせないもどかしさを詠み、同じ里に住みながら人目に阻まれる恋の苦しさを伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、471頁(コマ28)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、543頁(コマ35)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日