万葉集 巻第十二 2928〜2931番
各自 人死すらし
人はそれぞれ恋に死ぬらしい、妹を恋うて日ごとにやせる、人に知られずに。夕べごとに立って待つのに、もし君が来なかったら苦しいだろう。生きている間に恋というものを、逢わずにいると、恋の中でも私が一番苦しい。思い続けて座っていると苦しい、夜になったら私の方から行こう。正述心緒の歌四首。
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題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1各自各自おのがじし各寺師2928
- 2人人ひと死死しにすらしすらしすらし人死爲良思
- 3妹妹いもににに戀戀こひひい妹爾戀
- 4日日ひににに日日けににに瘦瘦やせせせぬぬぬ日異羸沼
- 5人人ひとににに知知しらえらえらえずずず人丹不所知
- 6夕夕ゆうべ夕夕ゆうべ夕夕2929
- 7吾吾わががが立立たちちち待待まつつつににに吾立待爾
- 8若若けだしくしくしくももも若雲
- 9君君きみ來來きまままさささずずずははは君不來益者
- 10苦苦くるしかるしかるしかるべしべしべし應辛苦
- 11生生いけけけるるる代代よににに生代爾2930
- 12戀戀こいとととふふふものものものををを戀云物乎
- 13相相あい見見みねねねばばば相不見者
- 14戀戀こいののの中中なかにににももも戀中爾毛
- 15吾吾われぞぞぞ苦苦くるしきしきしき吾曾苦寸
- 16念念おもひひいつつつつつつ念管2931
- 17坐坐おれれればばば苦苦くるしししももも座者苦毛
- 18ぬばたまぬばたまぬばたまののの夜干玉之
- 19夜夜よるににに至至いたらららばばば夜爾至者
- 20吾吾われこそこそこそ行行ゆかかかめめめ吾社湯龜
現代語訳
〔2928〕人はそれぞれ恋のために死ぬものらしい。私もいとしい人を恋い慕って、日ごとにやせていく。人に知られないで。
〔2929〕夕べごとに私が立って待っているのに、もしもあなたがおいでにならなかったら、苦しいことだろう。
〔2930〕生きているうちに恋というものを、逢わずにいるので、恋する人の中でも、私がいちばん苦しいことだ。
〔2931〕思い続けてじっと座っていると苦しい。(ぬばたまの)夜になったら、私の方から行こう。
意訳
正述心緒の歌の続きである。恋に死ぬ人もいるらしいと、日ごとにやせていく自分を思う歌、夕べごとに立って待つのに恋人が来なかったらという不安、逢えない恋で自分ほど苦しい者はいないという歌、じっと待つのは苦しいから夜になったら自分から行こうという女の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 各自
- 「おのがじし」。それぞれに。
- 死すらし
- 死ぬらしい。
- 日に日に
- 「ひにけに」。日ごとに。
- 若しくも
- 「けだしくも」。もしも。
- 吾こそ行かめ
- 私の方から行こう。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・2928〜2931番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 2931番の「ぬばたまの」が「夜」にかかる。
解説
2931番は、男の訪れを待つのではなく自分から逢いに行こうという、積極的な女の歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、471頁(コマ28)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、543頁(コマ35)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日