万葉集 巻第十二 2900〜2903番
吾妹子が 咲ひ眉引
妹の笑顔の眉の形が面影に浮かんで、むやみに思い出される。日が暮れるとどうしようもなく、何度も嘆いて恋い続けている。私の恋は昼夜の別なく、幾重にも心に思うのでどうしようもない。ひどく薄い眉をむなしくかかせ続けて、逢ってくれない人よ。正述心緒の歌四首。
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題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1吾吾わぎ妹妹も子子こががが吾妹子之2900
- 2咲咲えまひひい眉眉まよ引引びき咲眉引
- 3面面おも影影かげににに面影
- 4かかりかかりかかりてててもとなもとなもとな懸而本名
- 5おもほゆるおもほゆるおもおゆるかもかもかも所念可毛
- 6あかねさすあかねさすあかねさす赤根指2901
- 7日日ひののの暮暮くれれれぬれぬれぬればばば日之暮去者
- 8術術すべををを無無なみみみ爲便乎無三
- 9千千ち遍遍たび嘆嘆なげきききててて千遍嘆而
- 10戀戀こひひいつつつつつつぞぞぞ居居おるるる戀乍曾居
- 11吾吾わががが戀戀こいははは吾戀者2902
- 12夜夜よる晝晝ひる別別わかかかずずず夜晝不別
- 13百百もも重重へ成成なすすす百重成
- 14情情こころししし念念もへへへばばば情之念者
- 15いともいともいとも術術すべなしなしなし甚爲便無
- 16いといといとのきのきのきててて五十殿寸太2903
- 17薄薄うすききき眉根眉根まよねををを薄寸眉根乎
- 18いたづらいたづらいたずらににに徒
- 19搔搔かかかかしめしめしめにににつつつつつつ令搔管
- 20逢逢あははわぬぬぬ人人ひとかもかもかも不相人可母
現代語訳
〔2900〕いとしい人のほほえんだ眉の形が、面影に浮かんで、むやみに思い出されることだ。
〔2901〕(あかねさす)日が暮れてしまうと、どうしようもなくて、何度も嘆いては、恋い続けていることだ。
〔2902〕私の恋は夜も昼も区別がない。幾重にも重なる心で思うので、まったくどうしようもない。
〔2903〕ひどく薄い眉を、むなしくかかせ続けて、逢ってくれない人よ。
意訳
正述心緒の歌の続きである。恋人の笑顔の眉が面影に浮かんで離れない歌、日が暮れると何度も嘆いて恋い続ける歌、昼夜の別なく幾重にも思う恋の歌、逢える前兆とされる眉のかゆみが何度もあったのに逢ってくれない恋人を恨む歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 咲ひ眉引
- 「ゑまひまよびき」。ほほえんだ時の眉の形。
- もとな
- むやみに。
- あかねさす
- 「日」にかかる枕詞。
- 百重成す
- 「ももへなす」。幾重にも重なる。
- いとのきて
- ひどく、とりわけ。
- 搔かしめにつつ
- かかせ続けて。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十二・相聞・2900〜2903番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 2901番の「あかねさす」。
- 俗信
- 2903番の眉のかゆみは、恋人に逢える前兆とされた。
解説
2903番は、眉がかゆくなるたびに恋人の訪れを期待したのに裏切られる女の恨みを、ややユーモラスに詠んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、468頁(コマ27)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、540頁(コマ34)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日