万葉集 巻第十 2345〜2348番
天霧ひ 零りくる雪の
空を曇らせて降る雪のように消えても、君に逢おうと生き長らえる。跡見山の雪のようにはっきり恋えば妹の名が人に知られる。泊瀬の山に降る雪のように長く恋した君の声がする。和射美の嶺を過ぎて降る雪のように厭わしくはないと、その子に伝えよ。雪に寄せた恋の歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(雪に寄す)
- 1天天あま霧霧ぎらひひい天霧相2345
- 2零零ふりりりくるくるくる雪雪ゆきののの零來雪之
- 3消消きえええぬぬぬともともとも消友
- 4君君きみににに逢逢あははわむむんととと於君合常
- 5ながらへながらへながらへ渡渡わたるるる流經度
- 6窺窺うかね狙狙らふふう窺良布2346
- 7跡見跡見とみ山山やま雪雪ゆきののの跡見山雪之
- 8いちじろくいちじろくいちじろく灼然
- 9戀戀こひひいばばば妹妹いもががが名名な戀者妹名
- 10人人ひと知知しらららむむんかもかもかも人將知可聞
- 11海海あま小小お船船ぶね海小船2347
- 12泊瀨泊瀨はつせののの山山やまににに泊瀨乃山爾
- 13降降ふるるる雪雪ゆきののの落雪之
- 14日日け長長ながくくく戀戀こひひいししし消長戀師
- 15君君きみががが音音おとぞぞぞするするする君之音曾爲流
- 16和射美和射美わざみののの和射美能2348
- 17嶺嶺みね行行ゆききき過過すぎぎぎててて嶺往過而
- 18零零ふるるる雪雪ゆきののの零雪乃
- 19厭厭いとひひいもももなしなしなしととと猒毛無跡
- 20白白まおせせせそのそのその兒兒こににに白其兒爾
現代語訳
〔2345〕空を曇らせて降ってくる雪が消えるように、身は消えてしまおうとも、あなたに逢おうと生き長らえている。
〔2346〕(窺狙ふ)跡見山の雪のように、はっきりと人目につくほど恋したら、いとしい人の名が人に知られてしまうだろうか。
〔2347〕(海小船)泊瀬の山に降る雪のように、長い日々恋い慕っていたあなたの声がする。
〔2348〕和射美の嶺を行き過ぎて降る雪のように、厭わしい気持ちなどないと申し上げておくれ、あの子に。
意訳
雪に寄せた恋の歌の続きである。雪のように身が消えても恋人に逢おうと生き長らえる思い、跡見山の雪のようにはっきりと恋すれば恋人の名が知られてしまうという恐れ、泊瀬の山の雪の中に長く恋した人の声を聞く喜び、和射美の嶺を越えて降る雪にかけて、決して厭う心はないと伝えてほしいと願う歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- ながらへ渡る
- 生き長らえ続ける。
- 窺狙ふ
- 「うかねらふ」。獲物をうかがい狙う意で「跡見」にかかる枕詞。
- 海小船
- 「あまをぶね」。舟が「泊つ」ことから「泊瀬」にかかる枕詞。
- 白せ
- 「まをせ」。申し上げよ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・相聞・2345〜2348番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 冬の相聞。雪に寄せた恋の歌。
修辞
- 枕詞
- 「窺狙ふ」が「跡見」に、「海小船」が「泊瀬」にかかる。
- 序詞
- 各首の上三句が下の句を導く。
解説
跡見山は狩りの見張りをする場所の名に由来するとされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、421頁(コマ214)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、482頁(コマ247)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日