万葉集 巻第十 2330〜2332番
妹がため 上枝の梅を
妹のために上の枝の梅を手折ろうとして、下の枝の露に濡れてしまった。八田の野の浅茅が色づく、有乳山の峰には沫雪が寒く降っているらしい。夜が更けたら出て来る月を、高い山の峰の白雲が隠すのだろうか。冬の露・黄葉・月の歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞露を詠める/黃葉を詠める/月を詠める
- 1妹妹いもがががためためため爲妹2330 露
- 2上上ほつ枝枝えののの梅梅うめををを末枝梅乎
- 3手手た折折おるるるとととははは手折登波
- 4下下しず枝枝えののの露露つゆににに下枝之露爾
- 5ぬれぬれぬれにににけるけるけるかもかもかも沾家類可聞
- 6八田八田やたののの野野ぬののの八田乃野之2331 黃葉
- 7淺淺あさ茅茅じ色色いろづくづくずく淺茅色付
- 8有乳有乳あらち山山やま有乳山
- 9峰峰みねののの沫沫あわ雪雪ゆき峯之沫雪
- 10寒寒さむくくく零零ふるるるらしらしらし寒零良之
- 11さささ夜夜よ深深ふけけけばばば左夜深者2332 月
- 12出出いででで來來こむむむ月月つきををを出來牟月乎
- 13高高たか山山やまののの高山之
- 14峰峰みねののの白白しら雲雲くも峯白雲
- 15隱隱かくすすすらむらむらんかもかもかも將隱鴨
現代語訳
〔2330〕いとしい人のために、上の枝の梅を手折ろうとして、下の枝の露に濡れてしまったことだ。
〔2331〕八田の野の浅茅が色づいている。有乳山の峰の沫雪が、寒々と降っているらしい。
〔2332〕夜が更けたら出て来るはずの月を、高い山の峰の白雲が隠すのだろうか。
意訳
冬の露・黄葉・月の歌である。恋人のために梅の上枝を手折ろうとして下枝の露に濡れた歌、八田の野の浅茅の色づきから有乳山の雪を思う歌、夜更けに出るはずの月を峰の白雲が隠すのではと案じる歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 上枝
- 「ほつえ」。上の方の枝。
- 下枝
- 「しづえ」。下の方の枝。
- 有乳山
- 越前と近江の境の山とされる。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2330〜2332番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 冬の雑歌。露・黄葉・月を詠んだ歌。
修辞
- 推量
- 2331番は、浅茅の色づきから遠い山の雪を推し量る。
解説
巻第十の冬の雑歌はここで終わり、冬の相聞が始まる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、419頁(コマ213)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、480頁(コマ246)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日