万葉集 巻第十 2325〜2329番
誰が苑の 梅の花ぞも
誰の庭の梅の花か、清い月夜にしきりに散って来る。梅の花の先に咲いた枝を手折って贈り物として添えようか。誰の庭の梅だったのか、こんなに咲いている、見たくてたまらないほどに。見に来る人もいないのでわが家の早咲きの梅は散ってもよい。雪が寒いので梅は咲くに咲かない、この頃はそのままでいてほしい。冬の梅の歌五首。
場面イラスト(準備中)
題詞花を詠める
- 1誰誰たががが苑苑そのののの誰苑之2325
- 2梅梅うめののの花花はなぞぞぞももも梅花毛
- 3ひさかたひさかたひさかたののの久堅之
- 4淸淸きよききき月月つく夜夜よににに淸月夜爾
- 5幾許幾許ここだ散散ちりりり來來くるるる幾許散來
- 6梅梅うめののの花花はな梅花2326
- 7先先まづづず咲咲さくくく枝枝えだををを先開枝
- 8手手た折折おりりりてててははは手折而者
- 9裹裹つとととと名名なづけづけづけててて裹常名付而
- 10比比よそへへえてててむむんかもかもかも與副手六香聞
- 11誰誰たががが苑苑そのののの誰苑之2327
- 12梅梅うめにににかかかありありありけむけむけん梅爾可有家武
- 13幾許幾許ここだももも幾許毛
- 14開開さきききてててあるあるあるかもかもかも開有可毛
- 15見見みががが欲欲ほしきしきしきまでまでまでににに見我欲左右手二
- 16來來きててて見見みべきべきべき來可視2328
- 17人人ひともももあらあらあらなくなくなくににに人毛不有爾
- 18吾吾わぎ家家へなるなるなる吾家有
- 19梅梅うめののの早早はつ花花はな梅早花
- 20散散ちりりりぬぬぬともともともよしよしよし落十方吉
- 21雪雪ゆき寒寒さむみみみ雪寒三2329
- 22咲咲さきききにににははは咲咲さかかかずずず咲者不開
- 23梅梅うめののの花花はな梅花
- 24縱縱よしししこのこのこの頃頃ごろははは縱比來者
- 25さてさてさてもももあるあるあるがねがねがね然而毛有金
現代語訳
〔2325〕誰の庭の梅の花だろうか。(ひさかたの)清らかな月夜に、しきりに散って来る。
〔2326〕梅の花の真っ先に咲いた枝を手折っては、贈り物と名づけて添えて贈ろうか。
〔2327〕誰の庭の梅であったのだろうか。これほどたくさん咲いていることよ。見たくてたまらないほどに。
〔2328〕来て見てくれるはずの人もいないのだから、わが家の梅の早咲きの花は散ってもかまわない。
〔2329〕雪が寒いので、咲くことには咲かない梅の花よ。ままよ、この頃はそのままでいてほしい。
意訳
冬の梅を詠んだ歌である。月夜にどこからともなく散ってくる梅の花、先に咲いた梅の枝を贈り物にしようという思い、誰の庭の梅かと思うほど咲き誇る花、見に来る人もいないから散ってもよいという寂しさ、雪の寒さに咲かない梅にそのままでいてほしいと願う歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 幾許
- 「ここだ」。たくさん、しきりに。
- 裹
- 「つと」。贈り物、みやげ。
- 比へてむかも
- 添えて贈ろうか。
- さてもあるがね
- そのままであってほしい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2325〜2329番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 冬の雑歌。梅を詠んだ歌。
修辞
- 枕詞
- 2325番の「ひさかたの」が「月」にかかる。
解説
冬の梅は早春を待ちわびる心を表し、雪や月と取り合わされることが多い。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、419頁(コマ213)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、479頁(コマ245)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日