万葉集 巻第十 2316〜2318番
奈良山の 峯なほ霧ふ
奈良山の峰はまだ曇っているのだろう、垣根の下の雪は消えない。こう降るなら袖も濡れ通るほど降るだろう雪が空で消えていく。夜が寒いので朝戸を開けて見ると庭もまだらに雪が降っていた。雪を詠んだ歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞雪を詠める
- 1奈良奈良なら山山やまののの奈良山乃2316
- 2峯峯みねなほなほなお霧霧きらららふふふ峯尙霧合
- 3うべうべうべしししこそこそこそ宇倍志社
- 4間間ま垣垣がきががが下下もとののの前垣之下乃
- 5雪雪ゆきははは消消けずずずけれけれけれ雪者不消家禮
- 6如是如是かく降降ふらららばばば殊落者2317
- 7袖袖そでさへさへさへぬれぬれぬれててて袖副沾而
- 8とほるとほるとおるべくべくべく可通
- 9降降ふりりりなむなむなん雪雪ゆきののの將落雪之
- 10空空そらににに消消けにににつつつつつつ空爾消二管
- 11夜夜よををを寒寒さむみみみ夜乎寒三2318
- 12朝朝あさ戸戸とををを開開ひらききき朝戸乎開
- 13出出いででで見見みれれればばば出見者
- 14庭庭にはもももはだらはだらはだらににに庭毛薄太良爾
- 15みみみ雪雪ゆき降降ふりりりたりたりたり三雪落有
現代語訳
〔2316〕奈良山の峰はまだ曇っているのだろう。なるほどそれで、垣根の下の雪は消えないでいるのだ。
〔2317〕このように降るならば、袖までも濡れて通るほどに降るはずの雪が、空で消えてしまう。
〔2318〕夜が寒いので、朝戸を開けて出て見ると、庭もまだらに雪が降っていた。
意訳
雪を詠んだ歌である。奈良山の峰が曇っているので垣根の下の雪が消えずに残っていると納得する歌、袖を濡らすほど降るはずの雪が地に届く前に空で消える歌、寒い夜の明けた朝、戸を開けると庭にまだらに雪が積もっていたという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 霧ふ
- 「きらふ」。曇る。
- うべしこそ
- なるほど。
- 間垣
- 「まがき」。垣根。
- はだらに
- まだらに。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2316〜2318番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 冬の雑歌。雪を詠んだ歌。
修辞
- 推量
- 2316番は、消えない雪から峰の曇りを推し量る。
解説
2318番の、朝戸を開けて薄雪に気づく素朴な驚きは、冬の朝の実感をよく伝えている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、419頁(コマ213)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、478頁(コマ245)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日