万葉集 巻第十 2312〜2315番
我が袖に 霰たばしる
袖に霰が飛び散る、包み隠して消えずにおこう、妹に見せるために。山が高いのか巻向の岸の小松に雪が降って来る。巻向の檜原も雲がかかったので小松の梢から沫雪が流れる。山道も知らない、白樫の枝もたわむほど雪が降ったので。冬の雑歌の巻頭、人麻呂歌集の雪と霰の歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞冬雜歌
- 1我我わががが袖袖そでににに我袖爾2312
- 2霰霰あられたばしるたばしるたばしる雹手走
- 3卷卷まききき隱隱かくししし卷隱
- 4消消けたたたずずずてててあらあらあらむむん不消有
- 5妹妹いもががが見見みむむむためためため妹爲見
- 6あしひきあしひきあしひきののの足曳之2313
- 7山山やまかもかもかも高高たかききき山鴨高
- 8卷向卷向まきむくののの卷向之
- 9岸岸きしののの子子こ松松まつににに木志乃子松二
- 10みみみ雪雪ゆき降降ふりりり來來くるるる三雪落來
- 11卷向卷向まきむくののの卷向之2314
- 12檜檜ひ原原はらもももいまだいまだいまだ檜原毛未
- 13雲雲くも居居いねねねばばば雲居者
- 14子子こ松松まつががが末末うれゆゆゆ子松之末由
- 15沫沫あわ雪雪ゆき流流ながるるる沫雪流
- 16あしひきあしひきあしひきののの足引2315
- 17山山やま道道じももも知知しらららずずず山道不知
- 18白白しら樫樫かしののの白杜杙
- 19枝枝えだもももとををとををとををににに枝母等乎乎爾
- 20雪雪ゆきののの降降ふれれれれれればばば雪落者
現代語訳
〔2312〕私の袖に霰が飛び散る。包み隠して消さずにおこう。いとしい人が見るために。
〔2313〕(あしひきの)山が高いからだろうか、巻向の岸の小松に雪が降って来る。
〔2314〕巻向の檜原にも、まだ雲がかかっていないのに、小松の梢から沫雪が流れるように降っている。
〔2315〕(あしひきの)山道もわからない。白樫の枝もたわむほどに、雪が降ったので。
意訳
冬の雑歌の巻頭に置かれた人麻呂歌集の歌である。袖に飛び散る霰を恋人に見せようと包み隠す歌、山が高いので巻向の岸の小松に雪が降る歌、雲もかからないのに小松の梢から沫雪が流れ落ちる歌、白樫の枝もたわむほどの雪で山道もわからなくなったという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- たばしる
- 激しく飛び散る。
- 卷き隱し
- 包み隠して。
- 雲居ねば
- 雲がかからないのに。
- とをを
- たわむさま。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2312〜2315番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 冬の雑歌。柿本人麻呂歌集に出る。2315番は三方沙弥の作ともいう。
修辞
- 枕詞
- 「あしひきの」が「山」にかかる。
解説
巻第十の冬の部は雑歌と相聞あわせて約四十首と少ない。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、419頁(コマ213)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、478頁(コマ245)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日