万葉集 巻第十 2295〜2297番
我が屋戸の 田葛葉日に日に
庭の葛の葉が日ごとに色づいた、来ない君はどういう心なのか。山の葛が黄葉するまで妹に逢えずに恋い続けるのか。黄葉のように心から離れない子を人妻として見ているだけなのか、恋しいのに。黄葉に寄せた恋の歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞黃葉に寄す
- 1我我わががが屋戸屋戸やどののの我屋戸之2295
- 2田葛田葛くず葉葉は日日ひににに日日けににに田葛葉日殊
- 3色色いろづきづきずきぬぬぬ色付奴
- 4來來きまさまさまさぬぬぬ君君きみははは不來座君者
- 5何何なに情情ごころぞぞぞももも何情曾毛
- 6あしひきあしひきあしひきののの足引乃2296
- 7山山やまさなさなさな葛葛かずら山佐奈葛
- 8もみづもみづもみずまでまでまで黃變及
- 9妹妹いもににに逢逢あははわずずずややや妹爾不相哉
- 10吾吾わががが戀戀こひひい居居おらららむむん吾戀將居
- 11もみぢもみぢもみじ葉葉ばののの黃葉之2297
- 12過過すぎぎぎがてがてがてぬぬぬ兒兒こををを過不勝兒乎
- 13人人ひと妻妻ずまととと人妻跡
- 14見見みつつつつつつやややあらあらあらむむん見乍哉將有
- 15戀戀こいしきしきしきものものものををを戀敷物乎
現代語訳
〔2295〕わが家の庭の葛の葉は日ごとに色づいた。おいでにならないあなたは、どういうお気持ちなのでしょう。
〔2296〕(あしひきの)山のさな葛が黄葉するまで、いとしい人に逢えずに、私は恋い続けているのだろうか。
〔2297〕黄葉が散り過ぎるように心から去ってはくれない娘を、人妻として見ているだけなのだろうか。恋しいのに。
意訳
黄葉に寄せた恋の歌である。葛の葉が日ごとに色づくほど長く来ない恋人の心をいぶかる歌、山のさな葛が黄葉するまで逢えずにいる嘆き、忘れようとしても忘れられない人妻への恋を歌う。
語釈・文法注
文法・本文
- 日に日に
- 「ひにけに」。日ごとに。
- さな葛
- さねかずら。
- 過ぎがてぬ
- 過ぎ去りかねる、忘れられない。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・相聞・2295〜2297番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の相聞。黄葉に寄せた恋の歌。
修辞
- 序詞
- 2297番の「もみぢ葉の」が「過ぎ」を導く。
- 枕詞
- 2296番の「あしひきの」が「山」にかかる。
解説
葛の葉の色づきは、時の経過を示すしるしとして詠まれている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、416頁(コマ212)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、476頁(コマ244)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日