万葉集 巻第十 2219〜2221番
あしひきの 山田作る子
山田を作る子よ、稲穂が出なくても縄だけは張れ、守っていると知らせるように。鹿が妻を呼ぶ山の岡の早稲田は刈るまい、霜が降っても。わが家の門の田を見ると佐保の内の秋萩やすすきが思われる。水田を詠んだ歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞水田を詠める
- 1あしひきあしひきあしひきののの足曳之2219
- 2山山やま田田だ作作つくるるる子子こ山田佃子
- 3秀秀ひでででずずずともともとも不秀友
- 4繩繩なわだにだにだに延延はへへへよよよ繩谷延與
- 5守守もるるるととと知知しるるるがねがねがね守登知金
- 6さささををお鹿鹿しかののの左小牡鹿之2220
- 7妻妻つま喚喚よぶぶぶ山山やまののの妻喚山之
- 8岳岳おか邊邊べなるなるなる岳邊在
- 9早早わさ田田だははは苅苅からららじじじ早田者不苅
- 10霜霜しもははは零零ふるるるともともとも霜者雖零
- 11我我わががが門門かどににに我門爾2221
- 12禁禁もるるる田田たををを見見みれれればばば禁田乎見者
- 13佐保佐保さほののの內內うちののの沙穗內之
- 14秋秋あき萩萩はぎすすきすすきすすき秋芽子爲酢寸
- 15念念おもほゆるほゆるおゆるかもかもかも所念鴨
現代語訳
〔2219〕(あしひきの)山田を作る人よ、稲穂が出なくても、せめて縄だけでも張っておけ。番をしていると知らせるために。
〔2220〕牡鹿が妻を呼ぶ山の岡辺にある早稲の田は刈るまい。霜が降るとしても。
〔2221〕わが家の門のあたりの番をしている田を見ると、佐保の内の秋萩やすすきが思われることだ。
意訳
水田を詠んだ歌である。穂が出なくても縄だけは張って、番をしているしるしにせよと山田を作る人に呼びかける歌、鹿が妻を呼ぶ岡辺の早稲田は、霜が降っても刈るまいという歌、門の田を見て佐保の秋萩やすすきを思い出す歌が並ぶ。山田の番は、恋人を他人から守ることにたとえられることもある。
語釈・文法注
文法・本文
- 秀でず
- 「ひでず」。穂が出ないで。
- 知るがね
- 知らせるように。
- 早田
- 「わさだ」。早稲の田。
- 禁る田
- 「もるた」。番をしている田。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2219〜2221番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。水田を詠んだ歌。
修辞
- 譬喩
- 2219番は、田の番を恋人を守ることにたとえるともいう。
解説
田に縄を張ることは、所有と番を示す標であった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、409頁(コマ208)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、467頁(コマ239)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日