万葉集 巻第十 2211〜2218番
妹が紐 解くと結ぶと
立田山は今こそ黄葉し始めた。雁が鳴いてから三笠山は色づいた。明け方の露に庭の萩原が色づいた。雁の越える龍田山は時雨と競って色づいた。夜更けに時雨よ降るな、萩の黄葉が散るのが惜しい。ふるさとの初紅葉を手折って来た、見ない人のために。君の家の初紅葉は早く降る時雨に濡れたらしい。一年に二度は行かない秋山を飽かずに過ごした。黄葉の歌の終わり八首。
場面イラスト(準備中)
題詞(黃葉を詠める)
- 1妹妹いもががが紐紐ひも妹之紐2211
- 2解解とくくくととと結結むすぶぶぶととと解登結而
- 3立田立田たつた山山やま立田山
- 4今今いまこそこそこそ黃葉黃葉もみじ今許曾黃葉
- 5はじめはじめはじめたりたりたりけれけれけれ始而有家禮
- 6雁雁かりがががねねねののの鴈鳴之2212
- 7喧喧なきききにににしししよりよりより喧之從
- 8春日春日かすがなるなるなる春日有
- 9三笠三笠みかさののの山山やまははは三笠山者
- 10色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付丹家里
- 11此此こののの頃頃ごろののの比者之2213
- 12あかときあかときあかとき露露つゆににに五更露爾
- 13吾吾わががが屋戸屋戸やどののの吾屋戸乃
- 14秋秋あきののの萩萩はぎ原原はら秋之芽子原
- 15色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付爾家里
- 16夕夕ゆうされされさればばば夕去者2214
- 17鴈鴈かりののの越越こえええゆくゆくゆく鴈之越往
- 18龍田龍田たつた山山やま龍田山
- 19時雨時雨しぐれににに競競きおひひい四具禮爾競
- 20色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付爾家里
- 21さささ夜夜よふけふけふけててて左夜深而2215
- 22時雨時雨しぐれななな零零ふりりりそそそ四具禮勿零
- 23秋秋あき萩萩はぎののの秋芽子之
- 24本本もと葉葉はののの黃葉黃葉もみじ本葉之黃葉
- 25ちらちらちらまくまくまく惜惜をしししももも落卷惜裳
- 26ふるさとふるさとふるさとののの古鄕之2216
- 27初初はつもみぢもみぢもみじ葉葉ばををを始黃葉乎
- 28手手た折折おりりり持持もちちち手折以
- 29今日今日きょうぞぞぞ吾吾わががが來來こししし今日曾吾來
- 30見見みぬぬぬ人人ひとののの爲爲ため不見人之爲
- 31君君きみががが家家いえののの君之家乃2217
- 32初初はつ黃葉黃葉もみじばははは初黃葉
- 33早早はやくくくふるふるふる早者落
- 34時雨時雨しぐれののの雨雨あめににに四具禮乃雨爾
- 35沾沾ぬれれれにににけらしけらしけらしももも所沾良之母
- 36一一ひと年年とせににに一年2218
- 37ふたふたふたたびたびたび行行ゆかかかぬぬぬ二遍不行
- 38秋秋あき山山やまををを秋山乎
- 39情情こころににに飽飽あかかかずずず情爾不飽
- 40過過すぐしししつるつるつるかもかもかも過之鶴鴨
現代語訳
〔2211〕(妹が紐解くと結ぶと)立田山は、今こそ黄葉し始めたことだ。
〔2212〕雁が鳴いてからというもの、春日にある三笠の山は色づいたことだ。
〔2213〕この頃の明け方の露に、わが家の庭の秋の萩原は色づいたことだ。
〔2214〕夕方になると雁が越えて行く龍田山は、時雨と競うように色づいたことだ。
〔2215〕夜が更けてから時雨よ降らないでおくれ。秋萩の根もとの葉の黄葉が散るのが惜しい。
〔2216〕ふるさとの初紅葉を手折って持って、今日私はやって来た。見ていない人のために。
〔2217〕あなたの家の初紅葉は、早くも降る時雨の雨に濡れてしまったらしい。
〔2218〕一年に二度とは行かない秋の山を、心に満ち足りないまま過ごしてしまったことだ。
意訳
黄葉の歌の結びである。黄葉し始めた立田山、雁の声とともに色づいた三笠山、明け方の露に色づいた庭の萩原、時雨と競うように色づく龍田山、夜更けの時雨に萩の黄葉が散るのを惜しむ歌、ふるさとの初紅葉を見ない人のために手折って来た歌、恋人の家の初紅葉が時雨に濡れたことを思う歌、一年に一度の秋山を見飽きないまま過ごした心残りが詠まれる。
語釈・文法注
文法・本文
- 妹が紐解くと結ぶと
- 紐を「解く」「結ぶ」の「たつ」から「立田」を導く序。
- あかとき
- 夜明け前。
- 本葉
- 根もとの方の葉。
- 情に飽かず
- 心に満ち足りないまま。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2211〜2218番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。黄葉を詠んだ歌。
修辞
- 序詞
- 2211番の「妹が紐解くと結ぶと」が「立田」を導く。
解説
ふるさとの紅葉を都の人に見せようと手折って持ち帰る歌は、紅葉狩りの風習の古い姿を伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、409頁(コマ208)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、467頁(コマ239)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日