万葉集 巻第十 2205〜2210番
秋萩の 下葉もみぢぬ
月日が過ぎて風が激しいので萩の下葉が黄葉した。南淵山は今日も白露が置いて黄葉が散っているか。門の浅茅が色づく、吉隠の夏身に時雨が降るのか。雁が寒く鳴いてから水茎の岡の葛の葉が色づいた。萩の下葉の黄葉が花に続く時が過ぎたら後で恋しくなる。明日香川に黄葉が流れる、葛城の山の木の葉は今散るのか。黄葉の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(黃葉を詠める)
- 1秋秋あき萩萩はぎののの秋芽子乃2205
- 2下下した葉葉ばもみぢもみぢもみじぬぬぬ下葉赤
- 3あらたまあらたまあらたまののの荒玉乃
- 4月月つきののの經經へ去去ゆけけけばばば月之歷去者
- 5風風かぜををを疾疾いたみみみかもかもかも風疾鴨
- 6まそまそまそかがみかがみかがみ眞十鏡2206
- 7南淵南淵みなぶち山山やまははは見名淵山者
- 8今日今日きょうもももかもかもかも今日鴨
- 9白白しら露露つゆ置置おきききててて白露置而
- 10黃葉黃葉もみじちるちるちるらむらむらん黃葉將散
- 11吾吾わががが屋戸屋戸やどののの吾屋戸之2207
- 12淺淺あさ茅茅じ色色いろづくづくずく淺茅色付
- 13吉隱吉隱よなばりののの吉魚張之
- 14夏身夏身なつみののの上上うえににに夏身之上爾
- 15時雨時雨しぐれふるふるふるかもかもかも四具禮零疑
- 16鴈鴈かりがががねねねののの鴈鳴之2208
- 17寒寒さむくくく鳴鳴なきききしししゆゆゆ寒鳴從
- 18水水みず莖莖くきののの水莖之
- 19岡岡おかののの葛葛くず葉葉はははは岡乃葛葉者
- 20色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付爾來
- 21秋秋あき萩萩はぎののの秋芽子之2209
- 22下下した葉葉ばのののもみぢもみぢもみじ下葉乃黃葉
- 23花花はなににに繼繼つぐぐぐ於花繼
- 24時時とき過過すぎぎぎ行行ゆかかかばばば時過去者
- 25後後のち戀戀こひひいむむんかもかもかも後將戀鴨
- 26明日香明日香あすか河河がわ明日香河2210
- 27もみぢもみぢもみじ葉葉ばながるながるながる黃葉流
- 28葛城葛城かつらぎののの葛木
- 29山山やまののの木葉木葉このはははは山之木葉者
- 30今今いまししし散散ちるるるかもかもかも今之散疑
現代語訳
〔2205〕秋萩の下葉が黄葉した。(あらたまの)月日が過ぎていったので、風が激しいからだろうか。
〔2206〕(まそかがみ)南淵山は、今日もまた白露が置いて、黄葉が散っているのだろうか。
〔2207〕わが家の庭の浅茅が色づいている。吉隠の夏身のあたりに、時雨が降っているのだろうか。
〔2208〕雁が寒々と鳴いてから、水茎の岡の葛の葉は色づいたことだ。
〔2209〕秋萩の下葉の黄葉が、花に続いて美しい時が過ぎてしまったら、後で恋しく思うことだろう。
〔2210〕明日香川に黄葉が流れている。葛城の山の木の葉は、今まさに散っているのだろうか。
意訳
黄葉の歌の続きである。月日が経って風が激しくなり黄葉した萩の下葉、白露に黄葉が散る南淵山を思う歌、門の浅茅の色づきから吉隠の夏身の時雨を思う歌、雁が寒々と鳴いてから色づいた葛の葉、花に続く萩の黄葉が終わればまた恋しくなるという歌、明日香川を流れる黄葉に葛城山の落葉を思う歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 風を疾み
- 風が激しいので。
- まそかがみ
- 「見」にかかる枕詞。
- 夏身
- 吉隠の地名。
- 鳴きしゆ
- 鳴いてから。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2205〜2210番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。黄葉を詠んだ歌。
修辞
- 推量
- 2207番・2210番は、手近な景色から遠くの様子を推し量る。
- 枕詞
- 2205番の「あらたまの」が「月」に、2206番の「まそかがみ」が「南淵」の「み」にかかる。
解説
身近な色づきから遠い山の時雨や落葉を思いやる構成が、この歌群に多い。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、408頁(コマ208)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、466頁(コマ239)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日