万葉集 巻第十 2199〜2204番
もの念ふと 隱らひ居りて
物思いに家にこもって今日見ると春日山は色づいていた。九月の白露を受けて山が黄葉するのを見るのはよい。妹のもとへと馬に鞍を置いて生駒山を越えると紅葉が散る。月の桂の枝が色づくのを見ると黄葉の時になったらしい。高松の野山の小高い所が色づくので里ごとに霜が置くらしい。秋風が日ごとに吹くので萩の下葉が色づいた。黄葉の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(黃葉を詠める)
- 1ものものもの念念もふふうととと物念2199
- 2隱隱こもらひらひらい居居おりりりててて隱座而
- 3今日今日きょう見見みれれればばば今日見者
- 4春日春日かすがののの山山やまははは春日山者
- 5色色いろづきづきずきにににけりけりけり色就爾家里
- 6九月九月ながつきののの九月2200
- 7白白しら露露つゆ負負おひひいててて白露負而
- 8あしひきあしひきあしひきののの足日木乃
- 9山山やまのののもみぢもみぢもみじむむん山之將黃變
- 10見見みまくまくまくしもしもしも良良よししし見幕下吉
- 11妹妹いも許許がりととと妹許跡2201
- 12馬馬うまににに鞍鞍くら置置おきききててて馬鞍置而
- 13射駒射駒いこま山山やま射駒山
- 14うちうちうち越越こえええ來來くれれればばば擊越來者
- 15紅葉紅葉もみじちりちりちりつつつつつつ紅葉散筒
- 16もみぢもみぢもみじするするする黃葉爲2202
- 17時時ときににになるなるなるらしらしらし時爾成良之
- 18月月つき人人ひとののの月人
- 19かつらかつらかつらののの枝枝えだののの楓枝乃
- 20色色いろづくづくずく見見みれれればばば色付見者
- 21里里さとごとごとごとににに里異2203
- 22霜霜しもははは置置おくくくらしらしらし霜者置良之
- 23高松高松たかまつののの高松
- 24野野ぬ山山やまづかさづかさずかさののの野山司之
- 25色色いろづくづくずく見見みれれればばば色付見者
- 26秋秋あき風風かぜののの秋風之2204
- 27日日ひにににけけけににに吹吹ふけけけばばば日異吹者
- 28露露つゆしきりしきりしきり露重
- 29萩萩はぎののの下下した葉葉ばははは芽子之下葉者
- 30色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付來
現代語訳
〔2199〕物思いをして家に隠れこもっていて、今日見ると、春日の山はすっかり色づいていた。
〔2200〕九月の白露を受けて、(あしひきの)山が黄葉するのを見るのは、よいものだ。
〔2201〕いとしい人のもとへと馬に鞍を置いて、生駒山を越えて来ると、紅葉が散り続けている。
〔2202〕黄葉する時になったらしい。月にあるという桂の枝が色づいて見えるので。
〔2203〕里ごとに霜は置いているらしい。高松の野山の小高い所が色づいて見えるので。
〔2204〕秋風が日ごとに吹くので、露がしきりに置いて、萩の下葉は色づいたことだ。
意訳
黄葉の歌の続きである。物思いにこもっていた間に色づいた春日山、白露に黄葉する山を見る楽しさ、恋人のもとへ生駒山を越える道に散る紅葉、月の桂の枝の色づきに黄葉の時を知る歌、高松の野山の色づきに里々の霜を思う歌、秋風と露に色づいた萩の下葉が詠まれる。
語釈・文法注
文法・本文
- 隱らひ
- 隠れこもって。
- 見まくしも良し
- 見るのはよいものだ。
- 月人のかつら
- 月に桂の木があるという中国の伝説による。
- 野山づかさ
- 野山の小高い所。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2199〜2204番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。黄葉を詠んだ歌。
修辞
- 見立て
- 2202番は月の光の色づきを桂の黄葉と見る。
- 枕詞
- 2200番の「あしひきの」が「山」にかかる。
解説
月に桂があるという伝説は中国から伝わり、万葉集にも取り入れられた。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、408頁(コマ208)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、466頁(コマ239)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日