万葉集 巻第十 2193〜2198番
秋風の 日に日に吹けば
秋風が日ごとに吹くので水茎の岡の木の葉も色づいた。雁が来て鳴くのとともに韓衣を裁つ龍田の山は黄葉し始めた。雁の声を聞くにつれ明日から春日の山は黄葉し始めるだろう。時雨が絶え間なく降るので真木の葉も逆らえず色づいた。激しい時雨が降らないのに大城の山は色づいた。風が吹けば黄葉が散る、少しも私の松原は清らかでなくなる。黄葉の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(黃葉を詠める)
- 1秋秋あき風風かぜののの秋風之2193
- 2日日ひににに日日けににに吹吹ふけけけばばば日異吹者
- 3水水みず莖莖くきののの水莖能
- 4岡岡おかののの木葉木葉このはももも岡之木葉毛
- 5色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付爾家里
- 6鴈鴈かりがががねねねののの鴈鳴乃2194
- 7來來き鳴鳴なきききししし共共なえににに來鳴之共
- 8韓韓から衣衣ころも韓衣
- 9龍田龍田たつたののの山山やまははは裁田之山者
- 10もみぢもみぢもみじ始始そめめめたりたりたり黃始有
- 11鴈鴈かりがががねねねののの鴈之鳴2195
- 12聲聲こえ聞聞きくくくなべなべなべににに聲聞苗荷
- 13明日明日あすよりよりよりははは明日從者
- 14春日春日かすがののの山山やまははは借香能山者
- 15もみぢもみぢもみじ始始そめめめなむなむなん黃始南
- 16時雨時雨しぐれののの雨雨あめ四具禮能雨2196
- 17間間ま無無なくくくししし零零ふれれればばば無間之零者
- 18眞木眞木まきののの葉葉はももも眞木葉毛
- 19あらそひあらそひあらそいかねかねかねててて爭不勝而
- 20色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付爾家里
- 21いちじろくいちじろくいちじろく灼然2197
- 22時雨時雨しぐれののの雨雨あめははは四具禮乃雨者
- 23零零ふらららなくなくなくににに零勿國
- 24大城大城おおきののの山山やまははは大城山者
- 25色色いろづきづきずきにににけりけりけり色付爾家里
- 26風風かぜ吹吹ふけけけばばば風吹者2198
- 27黃葉黃葉もみじちりちりちりつつつつつつ黃葉散乍
- 28少少しましくもくもくも小雲
- 29吾吾わののの松松まつ原原ばら吾松原
- 30淸淸きよからからからなくなくなくににに淸在莫國
現代語訳
〔2193〕秋風が日ごとに吹くので、水茎の岡の木の葉も色づいたことだ。
〔2194〕雁が来て鳴くのとともに、(韓衣)裁つという名の龍田の山は、黄葉し始めた。
〔2195〕雁の声を聞くにつれて、明日からは、春日の山は黄葉し始めることだろう。
〔2196〕時雨の雨が絶え間なく降るので、真木の葉も逆らいきれずに、色づいたことだ。
〔2197〕はっきりと時雨の雨が降ったわけでもないのに、大城の山は色づいたことだ。
〔2198〕風が吹くと黄葉が散り続けて、少しの間も、私の松原は清らかでないことだ。
意訳
黄葉の歌の続きである。日ごとに吹く秋風に色づく水茎の岡、雁の訪れとともに黄葉し始める龍田山、雁の声を聞いて明日からは春日山も色づくだろうと思う歌、絶え間ない時雨に常緑の真木の葉まで色づいたという歌、時雨も降らないのに色づいた大城の山、風に散る黄葉で松原が清らかでなくなると嘆く歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 日に日に
- 「ひにけに」。日ごとに。
- 水莖の
- 「岡」にかかる枕詞とも。
- 韓衣
- 「裁つ」から「龍田」にかかる枕詞。
- 眞木
- 杉や檜などの良材の木。
- いちじろく
- はっきりと、目立って。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2193〜2198番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。黄葉を詠んだ歌。
修辞
- 枕詞
- 2194番の「韓衣」が「龍田」にかかる。
- 擬人
- 2196番は真木の葉が時雨に逆らいきれないとする。
解説
常緑の真木が色づくはずはないが、時雨の激しさを誇張して表している。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、407頁(コマ207)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、465頁(コマ238)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日