万葉集 巻第十 2187〜2192番
妹が袖 卷來の山の
巻来の山の朝露に色づく黄葉が散るのが惜しい。黄葉の色づく日は多いが、妻梨の木を手折って挿そう。露霜の寒い夕べの秋風に黄葉した妻梨の木。門の浅茅が色づいた、吉隠の浪柴の野の黄葉が散るらしい。雁の声を聞くにつれ高松の野の草が色づいた。夫の白い衣が触れたら染まるほど黄葉した山。黄葉の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(黃葉を詠める)
- 1妹妹いもががが袖袖そで妹之袖2187
- 2卷來卷來まききののの山山やまののの卷來乃山之
- 3朝朝あさ露露つゆににに朝露爾
- 4にほふにほふにおう黃葉黃葉もみじののの仁寶布黃葉之
- 5散散ちらららまくまくまく惜惜をしししももも散卷惜裳
- 6もみぢもみぢもみじ葉葉ばののの黃葉之2188
- 7にほひにほひにおいははは繁繁しげししし丹穗日者繁
- 8然然しかれれれどもどもども然鞆
- 9妻妻つま梨梨なしののの木木きををを妻梨木乎
- 10手手た折折おりりり挿頭挿頭かざさささむむん手折可佐寒
- 11露露つゆ霜霜じもののの露霜乃2189
- 12さむきさむきさむき夕夕ゆうべののの寒夕之
- 13秋秋あき風風かぜににに秋風丹
- 14もみぢもみぢもみじにににけりけりけりももも黃葉爾來毛
- 15妻妻つま梨梨なしののの木木きははは妻梨之木者
- 16吾吾わががが門門かどののの吾門之2190
- 17淺淺あさ茅茅じ色色いろづくづくずく淺茅色就
- 18吉隱吉隱よなばりののの吉魚張能
- 19浪柴浪柴なみしばののの野野ぬののの浪柴乃野之
- 20もみぢもみぢもみじ散散ちるるるらしらしらし黃葉散良新
- 21鴈鴈かりががが音音ねををを鴈之鳴乎2191
- 22聞聞ききききつるつるつるなべなべなべににに聞鶴奈倍爾
- 23高松高松たかまつののの高松之
- 24野野ぬののの上上うえののの草草くさぞぞぞ野上之草曾
- 25色色いろづきづきずきにににけるけるける色付爾家留
- 26吾吾わが背背せ子子こががが吾背兒我2192
- 27白白しろたへたへたえ衣衣ごろも白細衣
- 28往往ゆききき觸觸ふらららばばば往觸者
- 29染染におひひいぬぬぬべくべくべくももも應染毛
- 30もみづもみづもみず山山やまかもかもかも黃變山可聞
現代語訳
〔2187〕(妹が袖)巻来の山の朝露に色美しく照り映える黄葉の、散るのが惜しいことだ。
〔2188〕黄葉の色づきは多いけれども、妻梨の木を手折って髪に挿そう。
〔2189〕露霜の寒い夕べの秋風に、黄葉したことだ、妻梨の木は。
〔2190〕わが家の門の浅茅が色づいた。吉隠の浪柴の野の黄葉も、散っているらしい。
〔2191〕雁の声を聞くにつれて、高松の野の上の草が色づいたことだ。
〔2192〕あの方の白い衣が行き触れたら、染まってしまいそうなほどに黄葉している山であることよ。
意訳
黄葉の歌の続きである。巻来の山の朝露に照り映える黄葉を惜しみ、多くの黄葉の中から妻梨の木を選んで髪に挿そうとし、寒い夕べの秋風に黄葉した妻梨の木を見る。門の浅茅の色づきから吉隠の野の黄葉が散るのを思い、雁の声とともに色づいた高松の野の草、夫の白い衣が触れたら染まりそうなほど色づいた山が詠まれる。
語釈・文法注
文法・本文
- 妹が袖
- 袖を「巻く」ことから「巻来」にかかる枕詞。
- 妻梨
- 「妻無し」をかけた梨の木の名。
- 浪柴の野
- 吉隠にある野の名。
- もみづ
- 紅葉する。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2187〜2192番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。黄葉を詠んだ歌。
修辞
- 枕詞
- 2187番の「妹が袖」が「卷來」にかかる。
- 掛詞
- 「妻梨」に「妻無し」をかける。
解説
梨の木を「妻無し」にかける言葉遊びは、独り身の寂しさを含ませる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、407頁(コマ207)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、465頁(コマ238)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日