古典ライブラリー

万葉集 巻第十 2180〜2186番

九月の 時雨の雨に

作者未詳

九月の時雨に濡れて春日の山は色づいた。雁の鳴く寒い明け方の露が春日山を色づかせるのだろう。この頃の明け方の露で庭の萩の下葉が色づいた。雁が来て鳴いた、黄葉が早く散るのを待つのは苦しい。秋山を気にかけるな、黄葉の思いが忘れがたいので。大坂を越えれば二上山の黄葉が時雨に流れる。秋になると白露に門の浅茅の葉先が色づいた。黄葉の歌七首。

時雨に濡れて色づいた春日山の木々と、庭の萩の下葉が紅に染まっている

題詞(黃葉を詠める)

  1. 1九月ながづき九月ながづきながつきののの九月乃2180
  2. 2時雨しぐれ時雨しぐれしぐれののの雨あめ雨あめあめににに鍾禮乃雨丹
  3. 3ぬれぬれぬれとほりとほりとおり沾通
  4. 4春日かすが春日かすがかすがののの山やま山やまやまははは春日之山者
  5. 5色いろ色いろいろづきづきずきにににけりけりけり色付丹來
  6. 6鴈かり鴈かりかりがががねねねののの鴈鳴之2181
  7. 7寒さむ寒さむさむききき朝あさ朝あさあさ明け明けけののの寒朝開之
  8. 8露つゆ露つゆつゆならならならししし露有之
  9. 9春日かすが春日かすがかすがののの山やま山やまやまををを春日山乎
  10. 10黃もみ黃もみもみだだだすすすものものものははは令黃物者
  11. 11このこのこの頃ごろ頃ごろごろののの比日之2182
  12. 12曉あかとき曉あかときあかとき露つゆ露つゆつゆににに曉露丹
  13. 13吾わ吾わわががが屋前には屋前にはにはののの吾屋前之
  14. 14萩はぎ萩はぎはぎののの下した下したした葉ば葉ばばははは芽子乃下葉者
  15. 15色いろ色いろいろづきづきずきにににけりけりけり色付爾家里
  16. 16雁かり雁かりかりがががねねねははは鴈鳴者2183
  17. 17今いま今いまいまははは來き來きき鳴な鳴ななきききぬぬぬ今者來鳴沼
  18. 18吾わ吾わわががが待ま待ままちちちししし吾待之
  19. 19黃葉もみぢ黃葉もみぢもみじはやはやはや繼つ繼つつげげげ黃葉早繼
  20. 20待ま待ままてててばばば苦くる苦くるくるしししももも待者辛苦母
  21. 21秋あき秋あきあき山やま山やまやまををを秋山乎2184
  22. 22ゆめゆめゆめ人ひと人ひとひと懸か懸かかくくくななな謹人懸勿
  23. 23忘わす忘わすわすれれれにににししし忘西
  24. 24そのそのそのもみぢもみぢもみじ葉ば葉ばばののの其黃葉乃
  25. 25思おも思おもおもほゆほゆおゆらくらくらくににに所思君
  26. 26大坂おほさか大坂おほさかおおさかををを大坂乎2185
  27. 27吾わ吾わわががが越こ越ここえええ來く來くくれれればばば吾越來者
  28. 28二上ふたがみ二上ふたがみふたがみににに二上爾
  29. 29もみぢもみぢもみじ葉ば葉ばば流なが流ながながるるる黃葉流
  30. 30時雨しぐれ時雨しぐれしぐれふりふりふりつつつつつつ志具禮零乍
  31. 31秋あき秋あきあきされされさればばば秋去者2186
  32. 32置お置おおくくく白しら白しらしら露つゆ露つゆつゆににに置白露爾
  33. 33吾わ吾わわががが門かど門かどかどののの吾門乃
  34. 34淺あさ淺あさあさ茅ぢ茅ぢじががが末うら末うらうら葉ば葉ばば淺茅何浦葉
  35. 35色いろ色いろいろづきづきずきにににけりけりけり色付爾家里

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔2180〕九月の時雨の雨にすっかり濡れ通って、春日の山は色づいたことだ。

〔2181〕雁の鳴く寒い明け方の露であるらしい。春日の山を色づかせるものは。

〔2182〕この頃の明け方の露に、わが家の庭の萩の下葉は色づいたことだ。

〔2183〕雁は今はもう来て鳴いた。私の待っていた黄葉よ、早く続いて色づけ。待っているのは苦しいことだ。

〔2184〕秋の山のことを、決して人よ口にしないでおくれ。忘れてしまっていた、あの黄葉のことが思い出されるので。

〔2185〕大坂を私が越えて来ると、二上山に黄葉が流れるように散っている。時雨が降り続いて。

〔2186〕秋になると置く白露に、わが家の門の浅茅の葉先は色づいたことだ。

意訳

黄葉の歌の続きである。九月の時雨に濡れて色づいた春日山、その山を色づかせるのは雁の鳴く寒い明け方の露だろうという推量、明け方の露に色づいた庭の萩の下葉、雁が来たので早く黄葉してほしいと待ちかねる心、忘れかけていた黄葉を思い出させないでほしいという歌、大坂を越えて見た二上山の時雨に散る黄葉、白露に色づいた門の浅茅が詠まれる。

語釈・文法注

文法・本文

九月
「ながづき」。陰暦九月。
黃だす
「もみだす」。紅葉させる。
曉露
「あかときつゆ」。明け方の露。
末葉
「うらば」。葉先。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十・雑歌・2180〜2186番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
秋の雑歌。黄葉を詠んだ歌。

修辞

推量
2181番は、春日山を色づかせるのは露だろうと推し量る。

解説

露や時雨が木の葉を色づかせると考えられていた。大坂越えは大和と河内を結ぶ道で、二上山を望む。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、406頁(コマ207)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、464頁(コマ238)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日