万葉集 巻第十 2168〜2176番
秋萩に 置ける白露
秋萩に置く白露を朝ごとに玉として見る。夕立の雨のたびに春日野の尾花の上の白露が思われる。萩の枝もたわむほど露霜が置く寒い季節になった。白露と萩とは別れがたい。尾花をなびかせて置く露に触れて妹よ散らすな。白露を取れば消えるから子らよ露と競って萩で遊ぼう。仮小屋に衣手寒く露が置いた。萩を散らす白露が置いたらしい。稲田がないと告げに露が来たらしい。露を詠んだ歌九首。
題詞露を詠める
- 1秋秋あき萩萩はぎににに冷芽子丹2168
- 2置置おけけけるるる白白しら露露つゆ置白露
- 3朝朝あさなななさなさなさな朝朝
- 4珠珠たまとととしししぞぞぞ見見みるるる珠年曾見流
- 5置置おけけけるるる白白しら露露つゆ置白露
- 6夕夕ゆう立立だちののの暮立之2169
- 7雨雨あめ降降ふるるるごとごとごとににに雨落每
- 8春日春日かすが野野ぬののの春日野之
- 9尾尾お花花ばなががが上上うえののの尾花之上乃
- 10白白しら露露つゆおもほゆおもほゆおもおゆ白露所念
- 11秋秋あき萩萩はぎののの秋芽子之2170
- 12枝枝えだもももとととををををををににに枝毛十尾丹
- 13露露つゆ霜霜じもおきおきおき露霜置
- 14寒寒さむくくくももも時時ときははは寒毛時者
- 15なりなりなりにににけるけるけるかもかもかも成爾家類可聞
- 16白白しら露露つゆととと白露2171
- 17秋秋あきののの萩萩はぎとととははは與秋芽子者
- 18戀戀こひひい亂亂みだりりり戀亂
- 19別別わくくくことことこと難難かたききき別事難
- 20吾吾わががが情情こころかもかもかも吾情可聞
- 21吾吾わががが屋戸屋戸やどののの吾屋戸之2172
- 22尾尾お花花ばなおしおしおしなべなべなべ麻花押靡
- 23置置おくくく露露つゆににに置露爾
- 24手手て觸觸ふれれれ吾吾わぎ妹妹も子子こ手觸吾妹兒
- 25散散ちらららまくまくまくももも見見みむむむ落卷毛將見
- 26白白しら露露つゆををを白露乎2173
- 27取取とらららばばば消消けぬぬぬべしべしべし取者可消
- 28いざいざいざ子子こどもどもども去來子等
- 29露露つゆににに競競きおひひいててて露爾爭而
- 30萩萩はぎののの遊遊あそびせせせむむん芽子之遊將爲
- 31秋秋あき田田た苅苅かるるる秋田苅2174
- 32假假かり廬廬ほををを作作つくりりり借廬乎作
- 33吾吾わががが居居おれれればばば吾居者
- 34衣衣ころも手手で寒寒さむくくく衣手寒
- 35露露つゆぞぞぞ置置おきききにににけるけるける露置爾家留
- 36このこのこの頃頃ごろののの日來之2175
- 37秋秋あき風風かぜ寒寒さむししし秋風寒
- 38萩萩はぎががが花花はな芽子之花
- 39散散ちらすらすらす白白しら露露つゆ令散白露
- 40置置おきききにににけらしけらしけらしももも置爾來下
- 41秋秋あき田田た苅苅かるるる秋田苅2176
- 42衣手衣手そで搖搖ゆるぐぐぐなりなりなり苫手搖奈利
- 43白白しら露露つゆははは白露者
- 44置置おくくく穗穗ほ田田だなしなしなしととと置穗田無跡
- 45告告つげげげににに來來きぬぬぬらしらしらし告爾來良思
現代語訳
〔2168〕秋萩に置いた白露を、毎朝、玉だと思って見ることだ。置いている白露を。
〔2169〕夕立の雨が降るたびに、春日野の尾花の上に置く白露が思われる。
〔2170〕秋萩の枝もたわむほどに露霜が置いて、寒い季節になったことだ。
〔2171〕白露と秋の萩とは、恋い乱れて、別れることが難しい。私の心のように。
〔2172〕わが家の庭の尾花を押しなびかせて置く露に、手を触れて、いとしい人よ、散らすのを見よう。
〔2173〕白露は手に取ると消えてしまうだろう。さあ子どもたちよ、露と競い合って萩の遊びをしよう。
〔2174〕秋の田を刈る仮小屋を作って私がいると、袖が寒くなるほどに、露が置いたことだ。
〔2175〕この頃の秋風は寒い。萩の花を散らす白露が置いたらしい。
〔2176〕秋の田を刈る人の袖がゆらいでいる。白露は、置くべき穂のある田がもうないと、告げに来たらしい。
意訳
露を詠んだ歌である。萩に置く白露を玉と見る歌、夕立のたびに春日野の尾花の露を思う歌、萩の枝もたわむ露霜に寒さを感じる歌、白露と萩とが離れがたいように恋い乱れる心、尾花に置いた露を恋人が手で散らすのを見たいという歌、手に取ると消える露と競って萩の遊びをしようと誘う歌、仮小屋で袖に置く露の寒さ、萩を散らす露、刈り入れが終わって置く穂もないと告げに来た露が詠まれる。
語釈・文法注
文法・本文
- 朝なさな
- 毎朝。
- とををに
- たわむほどに。
- 別く
- 「わく」。分ける、区別する。
- 萩の遊
- 萩の花を手折って楽しむ遊び。
- 穗田
- 稲穂の実った田。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2168〜2176番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。露を詠んだ歌。
修辞
- 見立て
- 2168番は白露を玉と見る。
- 擬人
- 2176番は白露が告げに来たとする。
解説
露は秋の深まりと、はかなさの象徴として詠まれる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、406頁(コマ207)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、463頁(コマ237)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日