万葉集 巻第十 2125〜2127番
春日野の 萩し散りなば
春日野の萩が散るなら、朝の東風に乗ってここへ散って来い。秋萩は雁に逢うまいと言っていたのか、雁の声を聞くと散ってしまう。秋になったら妹に見せようと植えた萩が、露霜を受けて散ってしまった。秋の花の歌の終わり三首。
場面イラスト(準備中)
題詞(花を詠める)
- 1春日春日かすが野野ぬののの春日野之2125
- 2萩萩はぎししし散散ちりりりなばなばなば芽子落者
- 3朝朝あさ東風東風こちののの朝東
- 4風風かぜににに副副たぐひひいててて風爾副而
- 5此處此處ここににに散散ちりりり來來こねねね此間爾落來根
- 6秋秋あき萩萩はぎははは秋芽子者2126
- 7鴈鴈かりににに逢逢あははわじじじととと於鴈不相常
- 8言言いへへえれれればばばかかか言有者香
- 9聲聲こえををを聞聞ききききてててははは音乎聞而者
- 10花花はなににに散散ちりりりぬるぬるぬる花爾散去流
- 11秋秋あきさらさらさらばばば秋去者2127
- 12妹妹いもににに見見みせせせむむんととと妹令視跡
- 13植植うゑゑえししし萩萩はぎ殖之芽子
- 14露露つゆ霜霜じも負負おひひいててて露霜負而
- 15散散ちりりりにににけるけるけるかもかもかも散來毳
現代語訳
〔2125〕春日野の萩が散るのなら、朝の東風に乗って、ここに散って来ておくれ。
〔2126〕秋萩は、雁には逢うまいと言っていたからだろうか。雁の声を聞くと、花が散ってしまった。
〔2127〕秋になったらいとしい人に見せようと植えた萩が、露霜を受けて散ってしまったことだ。
意訳
萩の歌の結びである。春日野の萩が散るなら、せめて朝の東風に乗ってこちらに散って来てほしいと願い、雁の声を聞くと散る萩を、雁に逢うまいと誓っていたかのようだと見立て、恋人に見せようと植えた萩が露霜で散ってしまった残念さを歌う。
語釈・文法注
文法・本文
- 朝東風
- 「あさこち」。朝吹く東風。
- 副ひて
- 「たぐひて」。寄り添って、乗って。
- 露霜
- 露と霜、また露が凍って霜のようになったもの。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2125〜2127番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。萩を詠んだ歌。
修辞
- 擬人
- 2126番は萩が雁に逢うまいと言ったと見立てる。
解説
萩の花が雁の来る頃に散ることを、萩と雁との関わりとして詠んでいる。次からは雁を詠んだ歌が続く。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、402頁(コマ205)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、459頁(コマ235)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日