万葉集 巻第十 2100〜2105番
秋田刈る 假廬の宿に
秋田を刈る仮小屋に照り映えるほどに咲く萩は見飽きない。衣は自分で摺ったのではない、高松の野を行ったら萩が摺ったのだ。今夕秋風が吹いた、白露と競う萩の明日咲くのを見よう。秋風が涼しくなった、馬を並べて萩を見に行こう。朝顔は朝露を負って咲くというが夕陰にこそ美しい。春は霞に隠れて見えなかった秋萩が咲いた。秋の花の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(花を詠める)
- 1秋秋あき田田た刈刈かるるる秋田苅2100
- 2假假かり廬廬ほののの宿宿やどりににに借廬之宿
- 3にほふにほふにおうまでまでまで爾穗經及
- 4咲咲さけけけるるる秋秋あき萩萩はぎ咲有秋芽子
- 5見見みれれれどどど飽飽あかかかぬぬぬかもかもかも雖見不飽香聞
- 6吾吾わががが衣衣きぬ吾衣2101
- 7摺摺すれれれるるるにににはははあらあらあらずずず摺有者不在
- 8高松高松たかまつののの高松之
- 9野野ぬ邊邊べ行行ゆきききしかしかしかばばば野邊行之者
- 10萩萩はぎののの摺摺すれれれるるるぞぞぞ芽子之摺類曾
- 11このこのこの暮暮ゆうべ此暮2102
- 12秋秋あき風風かぜ吹吹ふきききぬぬぬ秋風吹奴
- 13白白しら露露つゆににに白露爾
- 14あらそふあらそふあらそう萩萩はぎののの荒爭芽子之
- 15明日明日あす咲咲さかかかむむん見見みむむむ明日將咲見
- 16秋秋あき風風かぜははは秋風2103
- 17冷冷すずしくしくしくなりなりなりぬぬぬ冷成奴
- 18馬馬うま竝竝なめめめててて馬並而
- 19いざいざいざ野野ぬににに行行ゆかかかななな去來於野行奈
- 20萩萩はぎががが花花はな見見みににに芽子花見爾
- 21朝顏朝顏あさがおははは朝杲2104
- 22朝朝あさ露露つゆ負負おひひいててて朝露負
- 23咲咲さくくくととと云云いへへえどどど咲雖云
- 24夕夕ゆう陰陰かげにににこそこそこそ暮陰社
- 25咲咲さきききまさりまさりまさりけれけれけれ咲益家禮
- 26春春はるされされさればばば春去者2105
- 27霞霞かすみ隱隱がくりりりててて霞隱
- 28見見みえええざりざりざりししし不所見有師
- 29秋秋あき萩萩はぎ咲咲さけけけりりり秋芽子咲
- 30折折おりりりててて挿頭挿頭かざさささむむん折而將挿頭
現代語訳
〔2100〕秋の田を刈るための仮小屋のあたりに照り映えるほどに咲いている秋萩は、見ても見飽きないことだ。
〔2101〕私の衣は自分で摺り染めにしたのではない。高松の野辺を行ったところ、萩が摺り染めにしたのだ。
〔2102〕この夕べ、秋風が吹いた。白露と競い合う萩の、明日咲くのを見よう。
〔2103〕秋風が涼しくなった。馬を並べて、さあ野に行こう。萩の花を見に。
〔2104〕朝顔は朝露を浴びて咲くというけれど、夕方の光の中でこそ、いっそう美しく咲くことだ。
〔2105〕春には霞に隠れて見えなかった秋萩が咲いた。折って髪に挿そう。
意訳
秋の花の歌の続きである。秋田の仮小屋のあたりに照り映える萩の美しさ、高松の野を行くうちに萩の花で衣が自然に染まったという歌、白露と競って咲こうとする萩の明日の花を待つ心、涼しくなった秋風の中、馬を並べて萩を見に行こうと誘う歌、朝露より夕陰にこそ美しい朝顔、春には霞に隠れていた萩が咲いたので髪に挿そうという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 假廬
- 「かりほ」。田の番をするための仮小屋。
- にほふ
- 色美しく照り映える。
- 朝顏
- 「あさがほ」。ききょう、むくげなどとする説がある。
- 挿頭さむ
- 髪に挿そう。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2100〜2105番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 秋の雑歌。萩・朝顔を詠んだ歌。
修辞
- 擬人
- 2101番は萩が衣を摺ったとする。
解説
万葉集の「朝顔」は今のあさがおではなく、ききょうなどを指すとされる。秋の七草の一つにも数えられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、401頁(コマ204)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、457頁(コマ234)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日