万葉集 巻第十 2092〜2093番
天地と 別れし時ゆ
天地が分かれた時から天のしるしと定めた天の河原に、月を重ねて妹に逢う時を待って立っていると、衣手に秋風が吹き返り、心は揺れ乱れる。いつかと待つ今夜は、この川の流れのように長く続いてほしい。妹に逢う時を待つうちに天の河原で月日が過ぎた。人麻呂歌集の七夕の長歌と反歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(七夕)
- 1天天あめ地地つちととと別別わかれれれししし時時ときゆゆゆ天地跡 別之時從2092 長歌
- 2ひさかたひさかたひさかたののの天天あまつつつしるししるししるしととと久方乃 天驗常
- 3定定さだめめめてててししし天天あまののの河河かわ原原らににに定大王 天之河原爾
- 4あらたまあらたまあらたまののの月月つきををを累累かさねねねててて璞 月累而
- 5妹妹いもににに逢逢あふふう時時とき候候さもらふふうととと妹爾 相時候跡
- 6立立たちちち待待まつつつににに吾吾わががが衣衣ころも手手でににに立待爾 吾衣手爾
- 7秋秋あき風風かぜののの吹吹ふききき反反かへさへさへさへばばば秋風之 吹反者
- 8立立たちちちててて坐坐いるるるたどきたどきたどきををを知知しらららににに立坐 多土伎乎不知
- 9村肝村肝むらぎもののの心心こころたゆたひたゆたひたゆたい村肝 心不欲
- 10解衣解衣ときぎぬののの思思おもひひい亂亂みだれれれててて解衣 思亂而
- 11何時何時いつしかしかしかととと吾吾わががが待待まつつつ今今こ夜夜よい何時跡 吾待今夜
- 12このこのこの川川かはののの行行ゆきののの長長ながけくけくけくありありありこせこせこせぬぬぬかもかもかも此川 行長 有不得鴨
- 13妹妹いもににに逢逢あふふう妹爾相2093 反歌
- 14時時とき片片かた待待まつつつととと時片待跡
- 15ひさかたひさかたひさかたののの久方乃
- 16天漢天漢あまのかわ原原らににに天之漢原爾
- 17月月つきぞぞぞ經經へにににけるけるける月叙經來
現代語訳
〔2092〕天と地が分かれた時から、(ひさかたの)天のしるしと定めた天の河原に、(あらたまの)月を重ねて、妻に逢う時をうかがって立って待っていると、私の袖に秋風が吹き返すので、立ったり座ったりどうしてよいかわからず、(村肝の)心は揺れ動き、(解衣の)思い乱れて、いつかいつかと私が待っていた今夜は、この川の流れのように、長く続いてくれないものか。
〔2093〕妻に逢う時をひたすら待つとて、(ひさかたの)天の河原で、月日が過ぎてしまったことだ。
意訳
人麻呂歌集の七夕の長歌である。天地開闢の昔から天の河原で月日を重ねて妻に逢う時を待ち、秋風が袖を吹き返すと、立っても座っても落ち着かず心が乱れる。いつかいつかと待ち続けた今夜が、天の川の流れのように長く続いてほしいと願う。反歌では、逢う時を待つうちに天の河原で月日が過ぎてしまったと歌う。
語釈・文法注
文法・本文
- 時候ふ
- 「ときさもらふ」。時機をうかがう。
- たどきを知らに
- どうしてよいかわからずに。
- たゆたひ
- 揺れ動いて。
- 解衣の
- 「思ひ亂れ」にかかる枕詞。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2092〜2093番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 七夕の長歌と反歌。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 枕詞
- 「ひさかたの」「あらたまの」「村肝の」「解衣の」などを連ねる。
解説
彦星の立場から、逢瀬を待つ心の揺れを長歌で詠んだもので、人麻呂歌集の七夕歌の中でもまとまった作である。巻第十の七夕歌はここで終わる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、400頁(コマ204)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、455頁(コマ233)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日