万葉集 巻第十 2081〜2086番
天漢 棚橋わたせ
天の川に棚橋を渡せ、織女が渡るために。河門は八十もある、どこで君の舟を待とうか。秋風の吹いた日から瀬に出て待つと告げてほしい。去年の渡り瀬は荒れて君の来る道がわからない。白波が高くてもまっすぐ渡って来た、待つのは苦しいので。牽牛の舟の引き綱のように絶えるとは思わない。七夕歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(七夕)
- 1天漢天漢あまのがわ天漢2081
- 2棚棚たな橋橋はしわたせわたせわたせ棚橋渡
- 3織女織女たなばたののの織女之
- 4いいい渡渡わたらさらさらさむむんににに伊渡左牟爾
- 5棚棚たな橋橋はしわたせわたせわたせ棚橋渡
- 6天漢天漢あまのがわ天漢2082
- 7河河かは門門と八十八十やそありありあり河門八十有
- 8何處何處いずくにににかかか何爾可
- 9君君きみがががみみみ船船ふねををを君之三船乎
- 10吾吾わががが待待まちちち居居おらららむむん吾待將居
- 11秋秋あき風風かぜののの秋風乃2083
- 12吹吹ふきききにににししし日日ひよりよりより吹西日從
- 13天漢天漢あまのがわ天漢
- 14瀨瀨せににに出出いででで立立たちちちててて瀨爾出立
- 15待待まつつつととと告告つげげげこそこそこそ待登告許曾
- 16天漢天漢あまのがわ天漢2084
- 17去年去年こぞののの渡渡わたり瀨瀨せ去年之渡湍
- 18荒荒あれれれにににけりけりけり有二家里
- 19君君きみががが來來きまさまさまさむむん君將來
- 20道道みちののの知知しらららなくなくなく道乃不知久
- 21天漢天漢あまのがわ天漢2085
- 22湍湍せ瀨瀨ぜににに白白しら浪浪なみ湍瀨爾白浪
- 23高高たかけどけどけどももも雖高
- 24ただただただ渡渡わたりりり來來きぬぬぬ直渡來沼
- 25待待またたたばばば苦苦くるしみしみしみ待者苦三
- 26牽牛牽牛ひこぼしののの牽牛之2086
- 27嬬嬬つま喚喚よぶぶぶ舟舟ふねののの孋喚舟之
- 28引引ひき綱綱ずなののの引綱乃
- 29絕絕たえええむむんととと君君きみををを將絕跡君乎
- 30吾吾わががが念念おもははわなくなくなくににに吾念勿國
現代語訳
〔2081〕天の川に棚橋を渡しておくれ。織女がお渡りになるために、棚橋を渡しておくれ。
〔2082〕天の川には渡り場が八十もある。どこで、あなたの御船を私は待っていたらよいのだろうか。
〔2083〕秋風が吹いたその日から、天の川の瀬に出て立って待っていると、あの方に告げてほしい。
〔2084〕天の川の去年の渡り瀬は荒れてしまった。あの方がおいでになる道がわからないことだ。
〔2085〕天の川の早瀬に白波が高く立っているけれども、まっすぐに渡って来た。待っているのは苦しいので。
〔2086〕牽牛が妻を呼ぶ舟の引き綱が切れるように、あなたとの仲が絶えようとは、私は思わないのに。
意訳
七夕の歌の続きである。織女が渡れるよう棚橋を架けよと呼びかけ、たくさんある渡り場のどこで彦星の舟を待とうかと迷い、秋風が吹いてから瀬に出て待っていると伝えてほしいと願う。去年の渡り瀬が荒れて彦星の来る道がわからないと案じ、白波が高くても待ちきれずに渡って来た彦星、引き綱が切れるように二人の仲が絶えるとは思わないという誓いが詠まれる。
語釈・文法注
文法・本文
- 棚橋
- 板を棚のように渡した橋。
- い渡らさむ
- お渡りになる。「い」は接頭語。
- 湍瀨
- 「せぜ」。早瀬。
- 引綱
- 「ひきづな」。舟を引く綱。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2081〜2086番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 七夕の歌。
修辞
- 反復
- 2081番は初句と結句に「棚橋わたせ」をくり返す。
- 序詞
- 2086番の上三句が「絕え」を導く。
解説
2081番は、織女の方から彦星のもとへ渡るという、中国本来の七夕伝説の形をとどめている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、399頁(コマ203)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、454頁(コマ233)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日