万葉集 巻第十 2056〜2062番
天の河 打橋渡せ
天の川に板橋を渡せ、時を待たずに妹の家へ通おう。月を重ねて思う妹に逢えた夜は七夜も続いてほしい。年に一度装う舟を漕ごう、波よ立つな。波が立っても漕ぎ出そう。今夜逢った娘に言葉も交わさないうちに夜が明けた。白波が高い、君の舟出は今らしい。機の踏み木を持って行って板橋を渡す、君が来るために。七夕歌七首。
場面イラスト(準備中)
題詞(七夕)
- 1天天あまののの河河かは天河2056
- 2打打うち橋橋はし渡渡わたせせせ打橋度
- 3妹妹いもががが家家いえ道道じ妹之家道
- 4止止やまままずずず通通かよははわむむん不止通
- 5時時とき待待またたたずずずともともとも時不待友
- 6月月つきかさねかさねかさね月累2057
- 7吾吾わががが思思もふふう妹妹いもににに吾思妹
- 8逢逢あへへえるるる夜夜よははは會夜者
- 9今今いまししし七七なな夜夜よををを今之七夕
- 10續續つぎぎぎこせこせこせぬぬぬかもかもかも續巨勢奴鴨
- 11年年としににに裝裝よそふふう年丹裝2058
- 12吾吾わががが舟舟ふね榜榜こがががむむん吾舟榜
- 13天天あまののの河河かは天河
- 14風風かぜははは吹吹ふくくくともともとも風者吹友
- 15浪浪なみ立立たつつつなななゆめゆめゆめ浪立勿忌
- 16天天あまののの河河かは天河2059
- 17浪浪なみははは立立たつつつともともとも浪者立友
- 18吾吾わががが舟舟ふねははは吾舟者
- 19いざいざいざ榜榜こぎぎぎ出出いでででむむん率榜出
- 20夜夜よののの深深ふけけけぬぬぬ間間まににに夜之不深間爾
- 21直直ただ今今こ夜夜よい直今夜2060
- 22逢逢あひひいたるたるたる兒兒こ等等らににに相有兒等爾
- 23言言ことどひどひどいももも事問母
- 24いまだいまだいまだ爲爲せずずずしてしてして未爲而
- 25さささ夜夜よぞぞぞ明明あけけけにににけるけるける左夜曾明二來
- 26天天あまののの河河かは天河2061
- 27白白しら浪浪なみ高高たかししし白浪高
- 28吾吾わががが戀戀こふるふるうる吾戀
- 29君君きみががが舟舟ふな出出でははは公之舟出者
- 30今今いま爲爲すらしらしらしももも今爲下
- 31機機はたものののの機2062
- 32蹋木蹋木ふみき持持もちちち行行ゆきききててて蹋木持往而
- 33天天あまののの河河かは天河
- 34打打うち橋橋はしわたすわたすわたす打橋度
- 35君君きみががが來來こむむむ爲爲ため公之來爲
現代語訳
〔2056〕天の川に板の橋を渡しておくれ。いとしい人の家への道を、絶えず通おう。決まった時を待たなくても。
〔2057〕幾月も重ねて私が思い続けた妹に逢えた夜は、今からでも七夜も続けてくれないものか。
〔2058〕一年に一度飾りたてる私の舟を漕いで行こう。天の川よ、風は吹いても、波は決して立つな。
〔2059〕天の川に波は立っても、私の舟はさあ漕ぎ出そう。夜が更けないうちに。
〔2060〕まさに今夜逢った娘に、言葉も交わさないうちに、夜が明けてしまったことだ。
〔2061〕天の川に白波が高く立っている。私が恋い慕うあの方の舟出は、今するらしい。
〔2062〕機の踏み木を持って行って、天の川に板橋を渡します。あなたがいらっしゃるために。
意訳
七夕の歌の続きである。天の川に板橋を架ければ時を待たずに通えると願う彦星、逢えた夜が七夜も続いてほしいという思い、年に一度飾りたてた舟を漕ぎ出す彦星の心はやり、言葉も交わさないうちに明けた夜への惜別、白波の高さに彦星の舟出を知る織女、機の踏み木を橋にして彦星を迎えようとする織女が詠まれている。
語釈・文法注
文法・本文
- 打橋
- 「うちはし」。板を渡しただけの簡単な橋。
- 年に裝ふ
- 一年に一度飾りたてる。
- 言どひ
- 言葉を交わすこと。
- 蹋木
- 「ふみき」。機織りで足で踏む板。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2056〜2062番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 七夕の歌。
修辞
- 対照
- 2058番の「浪立つなゆめ」と2059番の「浪は立つとも」が呼応する。
解説
織女が機の踏み木で橋を架けるという発想は、機織りの女神らしいユーモアを含んでいる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、397頁(コマ202)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、452頁(コマ232)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日