万葉集 巻第十 2041〜2047番
秋風の 吹きただよはす
秋風が漂わせる白雲は織女の領巾だろうか。めったに逢えない君よ、夜の更けないうちに早く舟出を。秋風の清い夕べに天の川を漕ぎ渡る月人壮士。霧が立ちこめ牽牛の梶の音が聞こえる。君の舟が漕いで来るらしい、霧が立ち渡る。秋風に河波が立った、舟津に御舟を留めよ。川音が清い、牽牛の舟の波のさわぎか。七夕歌七首。
場面イラスト(準備中)
題詞(七夕)
- 1秋秋あき風風かぜののの秋風2041
- 2吹吹ふきききただよはすただよはすただよわす吹漂蕩
- 3白白しら雲雲くもははは白雲者
- 4たなばたつめたなばたつめたなばたつめののの織女之
- 5天天あまつつつ領巾領巾ひれかもかもかも天津領巾毳
- 6屢屢しばしばももも數裳2042
- 7相相あい見見みぬぬぬ君君きみををを相不見君矣
- 8天漢天漢あまのがわ天漢
- 9舟舟ふな出出で早早はや爲爲せよよよ舟出速爲
- 10夜夜よののの深深ふけけけぬぬぬ間間まににに夜不深間
- 11秋秋あき風風かぜののの秋風之2043
- 12淸淸きよきききゆふべゆふべゆうべににに清夕
- 13天漢天漢あまのがわ天漢
- 14舟舟ふね榜榜こぎぎぎ渡渡わたるるる舟榜度
- 15月月つき人人ひと壯子壯子おとこ月人壯子
- 16天漢天漢あまのがわ天漢2044
- 17霧霧きり立立たちちち渡渡わたりりり霧立度
- 18牽牛牽牛ひこぼしののの牽牛之
- 19楫楫かじののの音音と聞聞きこゆゆゆ檝音所聞
- 20夜夜よののの深深ふけけけゆけゆけゆけばばば夜深往
- 21君君きみががが舟舟ふね君舟2045
- 22今今いま榜榜こぎぎぎ來來くらしらしらし今榜來良之
- 23天漢天漢あまのがわ天漢
- 24霧霧きり立立たちちち渡渡わたるるる霧立度
- 25このこのこの川川かはののの瀨瀨せににに此川瀨
- 26秋秋あき風風かぜににに秋風爾2046
- 27河河かわ浪浪なみ立立たちちちぬぬぬ河浪起
- 28暫暫しましくはくはくわ暫
- 29八十八十やそののの舟舟ふな津津つににに八十舟津
- 30御御み舟舟ふねとどめとどめとどめよよよ三舟停
- 31天漢天漢あまのがわ天漢2047
- 32川川かは音音と淸淸さやけしけしけし川聲清之
- 33牽牛牽牛ひこぼしののの牽牛之
- 34速速はや榜榜こぐぐぐ船船ふねののの秋榜船之
- 35浪浪なみのののさわぎさわぎさわぎかかか浪驂香
現代語訳
〔2041〕秋風が吹き漂わせている白雲は、織女の天の領巾なのだろうか。
〔2042〕めったに逢えないあなたなのだから、天の川に早く舟出してください。夜が更けないうちに。
〔2043〕秋風の清らかな夕べに、天の川を舟を漕いで渡って行く月人壮士よ。
〔2044〕天の川に霧が立ちこめて、牽牛の舟の梶の音が聞こえる。夜が更けていくと。
〔2045〕あなたの舟が今漕いで来るらしい。天の川に霧が立ちこめている、この川の瀬に。
〔2046〕秋風が吹いて川波が立った。しばらくは、たくさんある舟着き場に御舟をとどめておいてください。
〔2047〕天の川の川音が清らかに聞こえる。牽牛が急いで漕ぐ船の、波のさわぎだろうか。
意訳
七夕の夜の天の川の情景を詠んだ歌である。秋風に漂う白雲を織女の領巾に見立て、夜の更けないうちに舟出してほしいと願う織女、月人壮士の舟、霧の中から聞こえる梶の音、霧の立つ瀬を漕いで来る彦星の舟、波が立ったので舟を留めてほしいという気づかい、清らかな川音を彦星の舟の波音かと聞く歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- ただよはす
- 漂わせる。
- 領巾
- 「ひれ」。女性が肩にかける細長い布。
- 八十の舟津
- たくさんの舟着き場。
- さわぎ
- 騒ぐ音。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2041〜2047番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 七夕の歌。
修辞
- 見立て
- 2041番は白雲を織女の領巾に見立てる。
解説
霧や川音、梶の音など、天の川を地上の川のように描くのが万葉の七夕歌の特徴である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、396頁(コマ202)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、451頁(コマ231)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日