万葉集 巻第十 2012〜2017番
白玉の 五百つ集を
白玉の多くの玉の緒を解きもせずに干しかねている、逢う日を待つので。天の川の水陰草が秋風になびく、時が来た。待っていた秋萩が咲いた、色に染まって行こう遠方の人のもとへ。うら恋しく思っていると夜船を漕ぐ梶の音が聞こえる。秋風に妹の声が聞こえる。逢える夜だけでも乏しくするな。七夕歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(七夕)
- 1白白しら玉玉たまののの水良玉2012
- 2五百五百いおつつつ集集つどいををを五百都集乎
- 3解解ときききももも見見みずずず解毛不見
- 4吾吾あははは干干ほししし難難かてぬぬぬ吾者干可太奴
- 5逢逢あははわむむん日日ひ待待まつつつににに相日待爾
- 6天漢天漢あまのかわ天漢2013
- 7水水みず陰陰かげ草草ぐさののの水陰草
- 8秋秋あき風風かぜににに金風
- 9靡靡なびかふかふかう見見みれれればばば靡見者
- 10時時ときははは來來きにににけりけりけり時來々
- 11吾吾わががが待待まちちちししし吾等待之2014
- 12秋秋あき萩萩はぎ咲咲さきききぬぬぬ白芽子開奴
- 13今今いまだにだにだにももも今谷毛
- 14染染におひひいににに行行ゆかかかななな爾寶比爾徃奈
- 15遠方遠方おちかた人人びとににに越方人邇
- 16吾吾わが背背せ子子こににに吾世子爾2015
- 17うらうらうら戀戀こひひい居居おれれればばば裏戀居者
- 18天天あまののの河河かは天河
- 19夜夜よ船船ぶね榜榜こぎぎぎ動動とよむむむ夜船榜動
- 20梶梶かじののの音音と聞聞きこゆゆゆ梶音所聞
- 21ままま日日け長長ながくくく眞氣長2016
- 22戀戀こふるふるうる心心こころよよよ戀心自
- 23秋秋あき風風かぜににに白風
- 24妹妹いもががが音音おと聞聞きこゆゆゆ妹音所聽
- 25紐紐ひも解解ときききゆかゆかゆかななな紐解往名
- 26戀戀こいしくしくしくははは戀敷者2017
- 27日日け長長ながきききものものものををを氣長物乎
- 28今今いまだにだにだにももも今谷
- 29乏乏ともしむしむしむべしべしべしややや乏之牟可哉
- 30逢逢あふふうべきべきべき夜夜よだにだにだに可相夜谷
現代語訳
〔2012〕白玉をたくさん集めて貫いた緒を、解いて見ることもせずに、私は干しかねている。逢う日を待っているので。
〔2013〕天の川の水辺の陰の草が、秋風になびくのを見ると、その時が来たことだ。
〔2014〕私が待っていた秋萩が咲いた。今すぐにでも、その色に染まりに行こう。遠くにいるあの人のもとへ。
〔2015〕あの方を心の中で恋しく思っていると、天の川で夜船を漕ぎ鳴らす梶の音が聞こえる。
〔2016〕長い日々恋い慕っていた心から、秋風の中にいとしい人の声が聞こえる。紐を解いて行こう。
〔2017〕恋しく思うのは長い日々のことなのに、今でさえ逢う機会を少なくしてよいものか。せめて逢える夜だけでも。
意訳
七夕の歌の続きである。逢う日を待って玉の緒を解きかねる織女、秋風に水陰草がなびいて逢瀬の時が来たことを知る喜び、待っていた秋萩が咲いたので遠方の人のもとへ行こうとする心、夜船の梶の音に彦星の訪れを知る織女、秋風に妹の声を聞いて紐を解いて行こうとする彦星、年に一度の逢える夜さえ短くしてよいのかと嘆く歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 五百つ集
- 多くの玉を集めて貫いたもの。
- 水陰草
- 水辺の物陰に生える草。
- 金風・白風
- 秋風の義訓。五行説で秋は金、白にあたる。
- ま日長く
- 長い日々。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・2012〜2017番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 七夕の歌。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 義訓
- 2013番の「金風」、2016番の「白風」を「あきかぜ」と訓む。
解説
秋を「金」「白」で表すのは、中国の五行思想による表記である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、394頁(コマ201)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、448頁(コマ230)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日