万葉集 巻第十 1993〜1995番
外のみに 見つつを戀ひむ
よそながら見て恋い慕おう、紅花の末を摘む花のように色に出さなくても。夏草の露を分けて行く衣でもないのに袖の乾く時がない。六月の大地が裂けるほど照る日にも、君に逢わなければ袖は乾くまい。花・露・日に寄せた恋の歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞(花に寄す)/露に寄す/日に寄す
- 1外外よそのみのみのみににに外耳1993 花
- 2見見みつつつつつつををを戀戀こひひいむむん見筒戀牟
- 3くれなゐくれなゐくれないののの紅乃
- 4末末うれ採採つむむむ花花はなののの末採花乃
- 5色色いろににに出出いでででずずずともともとも色不出友
- 6夏夏なつ草草くさののの夏草乃1994 露
- 7露露つゆ分分わけ衣衣ごろも露別衣
- 8著著つけけけなくなくなくににに不著爾
- 9我我わががが衣衣ころも手手でののの我衣手乃
- 10干干ひるるる時時ときもももなきなきなき干時毛名寸
- 11六月六月みなづきののの六月之1995 日
- 12地地つちさへさへさへ割割さけけけててて地副割而
- 13照照てるるる日日ひにににももも照日爾毛
- 14吾吾わががが袖袖そで乾乾ひめめめややや吾袖將乾哉
- 15君君きみににに逢逢あははわずずずしてしてして於君不相四手
現代語訳
〔1993〕よそながら見てばかりいて恋い慕おう。紅花の、末を摘む花の色のように、恋心を表に出さないとしても。
〔1994〕夏草の露を分けて行く衣を着ているわけでもないのに、私の袖が乾く時もないことだ。
〔1995〕六月の、大地さえ裂けるほどに照りつける日にも、私の袖が乾くことがあろうか。あなたに逢わないでいては。
意訳
紅花の末を摘むように、恋心を表に出さなくても、よそながら見て慕い続けようと思う歌、夏草の露に濡れたわけでもないのに涙で袖の乾く時がないと嘆く歌、六月の大地が裂けるほどの日照りでも、恋人に逢えなければ涙に濡れた袖は乾かないと訴える歌である。
語釈・文法注
文法・本文
- 外のみに
- よそながら、遠くからばかり。
- 末採む花
- 紅花。花の先端を摘んで染料にした。
- 露分衣
- 「つゆわけごろも」。草の露を分けて行く時の衣。
- 六月
- 「みなづき」。陰暦六月。真夏。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・相聞・1993〜1995番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 夏の相聞。花・露・日に寄せた恋の歌。
修辞
- 序詞
- 1993番の「くれなゐの末採む花の」が「色」を導く。
- 誇張
- 1995番の「地さへ割けて照る日」。
解説
1995番で巻第十の夏の部は終わり、次から秋の雑歌の七夕の歌群が始まる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、392頁(コマ200)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、446頁(コマ229)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日