古典ライブラリー

万葉集 巻第十 1979〜1981番

春されば 蜾蠃なす野の

作者未詳

春になると、すがる蜂の飛ぶ野のほととぎすのように、ほとんど妹に逢わずに来てしまった。五月山の花橘にほととぎすが隠れる時に君に逢えた。ほととぎすの来て鳴く五月の短夜も、独りで寝ると明かしかねる。夏の相聞、鳥に寄せた歌三首。

五月山の花橘の茂みにほととぎすが隠れ、その下で恋人たちが出会っている

題詞夏相聞 鳥に寄す

  1. 1春はる春はるはるされされさればばば春之在者1979
  2. 2蜾蠃すがる蜾蠃すがるすがるなすなすなす野ぬ野ぬぬののの酢輕成野之
  3. 3ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥
  4. 4殆ほとほと殆ほとほとほとほと妹いも妹いもいもににに保等穗跡妹爾
  5. 5逢あ逢ああははわずずず來き來ききにににけりけりけり不相來爾家里
  6. 6五月さつき五月さつきさつき山やま山やまやま五月山1980
  7. 7花はな花はなはな橘たちばな橘たちばなたちばなににに花橘爾
  8. 8ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥
  9. 9隱こも隱こもこもらふらふらう時とき時ときときににに隱合時爾
  10. 10逢あ逢ああへへえるるる君きみ君きみきみかもかもかも逢有公鴨
  11. 11ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥1981
  12. 12來き來きき鳴な鳴ななくくく五月さつき五月さつきさつきののの來鳴五月之
  13. 13短みじか短みじかみじか夜よ夜よよももも短夜毛
  14. 14獨ひとり獨ひとりひとりししし宿ぬ宿ぬぬれれればばば獨宿者
  15. 15明あ明ああかしかしかしかねかねかねつつつももも明不得毛

引用の仕方

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現代語訳

〔1979〕春になると、すがる蜂の飛ぶ野のほととぎすではないが、ほとほと、もう少しでいとしい人に逢わずに帰って来てしまうところだった。

〔1980〕五月山の花橘にほととぎすが隠れている時に、逢うことのできたあなたであることよ。

〔1981〕ほととぎすが来て鳴く五月の短い夜も、独りで寝ると、明かしかねることだ。

意訳

夏の相聞の鳥に寄せた歌である。すがる蜂の飛ぶ野のほととぎすの「ほと」から「ほとほと」を導き、危うく恋人に逢えずに帰るところだったと歌い、花橘にほととぎすが隠れる五月の山で恋人に逢えた喜びを歌い、短い夏の夜でさえ独り寝では長く感じられると嘆く。

語釈・文法注

文法・本文

蜾蠃
「すがる」。じがばち。
殆
「ほとほと」。あやうく、もう少しで。
隱らふ
隠れている。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十・相聞・1979〜1981番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
夏の相聞。鳥に寄せた恋の歌。

修辞

序詞
1979番の「春されば蜾蠃なす野のほととぎす」が、同音で「殆」を導く。

解説

夏の短夜も独り寝には長いという発想は、秋の長夜を嘆く歌と対をなしている。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、391頁(コマ199)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、445頁(コマ228)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日