万葉集 巻第十 1976〜1978番
卯の花の 咲き散る岳ゆ
卯の花の咲き散る岡からほととぎすが鳴いて渡って行く、あなたは聞いたか。聞いたかとお尋ねのほととぎすは、ずぶ濡れになってここを鳴いて渡って行った。橘の花の散る里に通ったら、山ほととぎすが噂を響かせるだろう。夏の問答と譬喩歌。
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題詞問答/譬喩歌
- 1卯卯うののの花花はなののの宇能花乃1976 問
- 2咲咲さききき散散ちるるる岳岳おかゆゆゆ咲落岳從
- 3霍公鳥霍公鳥ほととぎす霍公鳥
- 4鳴鳴なきききてててさささ渡渡わたるるる鳴而沙渡
- 5君君きみははは聞聞ききききつつつややや公者聞津八
- 6聞聞ききききつつつやややととと聞津八跡1977 答
- 7君君きみががが問問とはははせるせるせる君之問世流
- 8霍公鳥霍公鳥ほととぎす霍公鳥
- 9しぬぬしぬぬしぬぬににに沾沾ぬれれれててて小竹野爾所沾而
- 10此此こゆゆゆ鳴鳴なききき渡渡わたるるる從此鳴綿類
- 11橘橘たちばなののの橘1978 譬喩歌
- 12花花はな散散ちるるる里里さとににに花落里爾
- 13通通かよひひいなばなばなば通名者
- 14山山やまほととぎすほととぎすほととぎす山霍公鳥
- 15響響とよもさもさもさむむんかもかもかも將令響鴨
現代語訳
〔1976〕卯の花の咲いては散る岡から、ほととぎすが鳴いて渡って行く。あなたは聞きましたか。
〔1977〕聞いたかとあなたがお尋ねのほととぎすは、ぐっしょりと濡れて、ここを鳴いて渡って行きました。
〔1978〕橘の花の散る里に通って行ったら、山ほととぎすが鳴き騒いで、噂を響かせるだろうか。
意訳
ほととぎすの声を聞いたかと問う歌と、ずぶ濡れになってここを鳴いて渡って行ったと答える歌の問答である。続く譬喩歌は、橘の花の散る里(女の家)に通えば、山ほととぎす(世間の人)が騒ぎ立てて噂になるだろうと、恋の評判を恐れる気持ちをたとえている。
語釈・文法注
文法・本文
- さ渡る
- 渡って行く。「さ」は接頭語。
- しぬぬに
- ぐっしょりと。
- 響もさむ
- 鳴き騒ぐだろう。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・1976〜1978番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 夏の雑歌の問答と譬喩歌。
修辞
- 問答
- 1977番が1976番の「聞きつや」を受けて答える。
- 譬喩
- 1978番は、橘の里を女の家に、ほととぎすを噂する人にたとえる。
解説
ほととぎすの声を聞いたかどうかは、夏の訪れを告げる話題として人々の間で交わされた。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、391頁(コマ199)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、444頁(コマ228)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日