万葉集 巻第十 1958〜1963番
橘の 林を植ゑむ
橘の林を植えよう、ほととぎすが冬まで住みつくように。雨上がりの雲に添って春日の方へ鳴き渡る。物思いで眠れない明け方にどうしようもないほど鳴き渡る。衣を君に着せよとばかりに私の袖に来てとまる。昔なじみのほととぎすを珍しがって恋しく待っていると今来たのか。こんな雨の中でも卯の花の山で鳴いているのか。ほととぎすの歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(鳥を詠める)
- 1橘橘たちばなののの橘之1958
- 2林林はやしををを植植うゑゑえむむん林乎殖
- 3ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥
- 4常常つねににに冬冬ふゆまでまでまで常爾冬及
- 5住住すみみみわたるわたるわたるがねがねがね住度金
- 6雨雨あめ霽霽はれれれししし雨晴之1959
- 7雲雲くもににに副副たぐひひいててて雲爾副而
- 8ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥
- 9春日春日かすがををを指指さしししててて指春日而
- 10此此こゆゆゆ鳴鳴なききき渡渡わたるるる從此鳴度
- 11物物もの念念おもふふうととと物念登1960
- 12宿宿いねねねぬぬぬ朝朝あさ明明けににに不宿旦開爾
- 13ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥
- 14鳴鳴なきききてててさささ渡渡わたるるる鳴而左度
- 15術術すべなきなきなきまでまでまでににに爲便無左右二
- 16吾吾わががが衣衣きぬををを吾衣1961
- 17君君きみににに著著きせせせよよよととと於君令服與登
- 18霍公鳥霍公鳥ほととぎす霍公鳥
- 19吾吾われををを領領うしわききき吾乎領
- 20袖袖そでににに來來き居居いつつつつつつ袖爾來居管
- 21本本もとつつつ人人ひと本人1962
- 22ほととぎすほととぎすほととぎすをををややや霍公鳥乎八
- 23希希めずらしみらしみらしみ希將見
- 24今今いまややや汝汝なががが來來くるるる今哉汝來
- 25戀戀こひひいつつつつつつ居居おれれればばば戀乍居者
- 26斯斯かくくくばかりばかりばかり如是許1963
- 27雨雨あめののの零零ふらくらくらくににに雨之零爾
- 28霍公鳥霍公鳥ほととぎす霍公鳥
- 29卯卯うののの花花はな山山やまににに宇之花山爾
- 30なほなほなおかかか鳴鳴なくくくらむらむらん猶香將鳴
現代語訳
〔1958〕橘の林を植えよう。ほととぎすがいつも冬まで住み続けるように。
〔1959〕雨が上がった後の雲に寄り添って、ほととぎすが春日の方を目指して、ここを鳴いて渡って行く。
〔1960〕物思いをして眠れなかった明け方に、ほととぎすが鳴いて渡って行く。どうしようもないほどに。
〔1961〕私の衣をあの方に着せてやれというように、ほととぎすが私を押さえて、袖に来てとまっている。
〔1962〕昔なじみのほととぎすを、珍しいと思って恋しく待っていると、今になっておまえはやって来たのか。
〔1963〕これほど雨が降っているのに、ほととぎすは卯の花の咲く山で、それでも鳴いているのだろうか。
意訳
ほととぎすの歌の終わりの六首である。ほととぎすが冬まで住みつくように橘の林を植えたいと願い、雨上がりの雲に寄り添って春日へ鳴き渡る姿を見送る。眠れない明け方に鳴くほととぎすに物思いを深め、袖にとまるほととぎすに恋人へ衣を贈れと促されているように感じる。待ちわびた昔なじみの鳥の訪れを喜び、雨の降る中でも卯の花の山で鳴いているかと思いやる。
語釈・文法注
文法・本文
- がね
- …するように。
- 副ひて
- 「たぐひて」。寄り添って。
- 領き
- 「うしはき」。支配して、押さえて。
- 本つ人
- もとから親しい人。ここではほととぎす。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・1958〜1963番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- ほととぎすを詠んだ歌。
修辞
- 擬人
- 1961番・1962番は、ほととぎすを人のように見なす。
解説
ほととぎすは橘の花を好む鳥とされ、橘とともに詠まれることが多い。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、389頁(コマ198)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、442頁(コマ227)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日