万葉集 巻第十 1946〜1951番
木高くは 曾て木植ゑじ
木を高く茂らせるまいと思う、ほととぎすが来て鳴いて恋しさが増すから。逢いがたい人に逢えた夜こそ鳴け。夕闇の中をほととぎすはどこを家として鳴き渡るのか。今朝の明け方の声をあなたは聞いたか、朝寝していたか。花橘の枝で鳴いて花を散らす。いまいましい醜ほととぎす、今こそ声をからして鳴け。ほととぎすの歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(鳥を詠める)
- 1木木こ高高だかくくくははは木高者1946
- 2曾曾かつててて木木き植植うゑゑえじじじ曾木不殖
- 3霍公鳥霍公鳥ほととぎす霍公鳥
- 4來來き鳴鳴なききき響響とよめめめててて來鳴令響而
- 5戀戀こいまさらまさらまさらしむしむしむ戀令益
- 6逢逢あひひい難難がたききき難相1947
- 7君君きみににに逢逢あへへえるるる夜夜よ君爾逢有夜
- 8ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥
- 9他他こと時時ときよりよりよりははは他時從者
- 10今今いまこそこそこそ鳴鳴なかかかめめめ今社鳴目
- 11木木こののの晩晩くれののの木晩之1948
- 12暮暮ゆう闇闇やみなるなるなるににに暮闇有爾
- 13霍公鳥霍公鳥ほととぎす霍公鳥
- 14何處何處いずくををを家家いえととと何處乎家登
- 15鳴鳴なききき渡渡わたるるるらむらむらん鳴渡良武
- 16ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥1949
- 17今朝今朝けさののの朝朝あさ明明けににに今朝之且明爾
- 18鳴鳴なきききつるつるつるははは鳴都流波
- 19君君きみ聞聞ききききけむけむけんかかか君將聞可
- 20朝朝あさ宿宿いかかか寐寐ねけむけむけむ朝宿疑將寐
- 21ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥1950
- 22花花はな橘橘たちばなののの花橘之
- 23枝枝えだににに居居いててて枝爾居而
- 24鳴鳴なききき響響とよもせもせもせばばば鳴響者
- 25花花はなははは散散ちりりりつつつつつつ花波散乍
- 26慨慨うれたきききややや慨哉1951
- 27醜醜しこほととぎすほととぎすほととぎす四去霍公鳥
- 28今今いまこそこそこそははは今社者
- 29聲聲こえののの嗄嗄かるるるがにがにがに音之干蟹
- 30來來き喧喧なききき響響とよまままめめめ來喧響目
現代語訳
〔1946〕木を高く茂らせるようには、決して木を植えまい。ほととぎすが来て鳴き響かせて、恋しさを募らせるから。
〔1947〕逢いがたいあなたに逢えた夜だ。ほととぎすよ、ほかの時よりも、今こそ鳴いておくれ。
〔1948〕木の茂みが暗い夕闇の中なのに、ほととぎすはどこを自分の家として鳴き渡っているのだろう。
〔1949〕ほととぎすが今朝の明け方に鳴いたのを、あなたは聞いたでしょうか。それとも朝寝をしていたでしょうか。
〔1950〕ほととぎすが花橘の枝にとまって鳴き響かせるので、花は散り続けている。
〔1951〕いまいましいことよ、醜いほととぎすめ。今こそ声がかれるほどに来て鳴き響かせればよいのに。
意訳
ほととぎすの歌の続きである。高い木を植えるとほととぎすが来て鳴き、恋しさが募るから植えまいと思い、逢いがたい人に逢えた夜こそ鳴いてほしいと願う。夕闇の中、ほととぎすはどこを家として鳴き渡るのかと思いやり、明け方の声を恋人は聞いただろうかと気づかう。花橘の枝で鳴いて花を散らすほととぎす、肝心の時に鳴かないほととぎすを「醜ほととぎす」と罵る歌もある。
語釈・文法注
文法・本文
- 曾て
- 「かつて」。決して。下に打消を伴う。
- 他時
- 「ことき」。ほかの時。
- 木の晩
- 「このくれ」。木が茂って暗いこと。
- 慨きや
- 「うれたきや」。いまいましいことよ。
- 醜ほととぎす
- ののしって言う語。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・1946〜1951番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- ほととぎすを詠んだ歌。
修辞
- 反語
- 1946番の「曾て木植ゑじ」。
- 罵倒
- 1951番の「醜ほととぎす」は、親しみをこめた悪口。
解説
1951番の「醜ほととぎす」は、大伴坂上郎女の1507番の歌などにも見える言い方である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、388頁(コマ198)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、441頁(コマ226)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日