万葉集 巻第十 1937〜1938番
丈夫が 出で立ち向ふ
ふるさとの神奈備山で、夜が明けると柘の枝に、夕方には小松の梢に、里人が聞いて恋しく思うほどに、山びこが答えるほどに、ほととぎすが妻を恋うて夜中に鳴く。旅先で妻を恋うらしいほととぎすが、夜更けの神奈備山で鳴く。夏の雑歌の巻頭、古歌集の長歌と反歌。
場面イラスト(準備中)
題詞夏雜歌 鳥を詠める
- 1丈夫丈夫ますらおががが出出いででで立立たちちち向向むかふふう大夫之 出立向1937 長歌
- 2故郷故郷ふるさとののの神名備神名備かむなび山山やまににに故郷之 神名備山爾
- 3明明あけけけ來來くれれればばば柘柘つみののの小小さ枝枝えだににに明來者 柘之左枝爾
- 4夕夕ゆうされされさればばば小小こ松松まつががが末末うれににに暮去者 小松之若末爾
- 5里里さと人人びとののの聞聞きききき戀戀こふるふるうる迄迄までににに里人之 聞戀麻田
- 6山山やま彥彥びこののの答答こたふるふるうるまでまでまでににに山彥乃 答響萬田
- 7霍公鳥霍公鳥ほととぎす妻妻つま戀戀ごいすすすらしらしらしさささ夜夜よ中中なかににに鳴鳴なくくく霍公鳥 都麻戀爲良思 左夜中爾鳴
- 8旅旅たびにににしてしてして客爾爲而1938 反歌
- 9妻妻つま戀戀ごいすすすらしらしらし妻戀爲良思
- 10ほととぎすほととぎすほととぎす霍公鳥
- 11神名備神名備かむなび山山やまににに神名備山爾
- 12さささ夜夜よふけふけふけててて鳴鳴なくくく左夜深而鳴
現代語訳
〔1937〕ますらおが出で立って向かう、ふるさとの神奈備山に、夜が明けて来ると柘の小枝で、夕方になると小松の梢で、里人が聞いて恋しく思うほどに、山びこが答えるほどに、ほととぎすが妻を恋うているらしい。夜中に鳴いている。
〔1938〕旅に出ていて妻を恋うているらしい。ほととぎすが神奈備山で、夜が更けてから鳴いている。
意訳
夏の雑歌の巻頭の長歌である。明日香の神奈備山で、朝は柘の枝に、夕べは小松の梢にとまって、里人が恋しくなるほど、山びこが答えるほどに、ほととぎすが鳴いている。その声は妻を恋うて夜中に鳴くのだろうと思いやる。反歌では、ほととぎすも旅先で妻を恋うているのだろうと、旅人の身に重ねている。
語釈・文法注
文法・本文
- 柘
- 「つみ」。やまぐわ。
- 妻戀す
- 妻を恋い慕う。
- さ夜中
- 真夜中。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・1937〜1938番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 夏の雑歌の巻頭。古歌集に出るほととぎすの長歌と反歌。
修辞
- 対句
- 「明け來れば 柘の小枝に 夕されば 小松が末に」「里人の 聞き戀ふる迄に 山彦の 答ふるまでに」。
解説
ほととぎすは夏の到来を告げる鳥として、巻第十の夏雑歌の鳥の歌の大半を占める。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、387頁(コマ197)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、440頁(コマ226)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日