万葉集 巻第十 1884〜1886番
冬過ぎて 春し來れば
冬が過ぎて春が来ると年月は新しくなるが、人は古びていく。物はみな新しいのがよいが、人だけは古いのがよい。住吉の里に行ったら、春の花のように珍しく慕わしいあなたに逢えた。老いを嘆く歌二首と、逢えた喜びの歌。
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題詞舊りにしを歎く/逢へるを懽ぶ
- 1冬冬ふゆ過過すぎぎぎててて寒過1884 歎舊
- 2春春はるししし來來くれれればばば暖來者
- 3年年とし月月つきははは年月者
- 4新新あらたたたなれなれなれどもどもども雖新有
- 5人人ひとははは舊舊ふりりりゆくゆくゆく人者舊去
- 6物物もの皆皆みなははは物皆者1885 歎舊
- 7新新あたらしきしきしき良良よししし新吉
- 8ただただただ人人ひとははは唯人者
- 9舊舊ふりりりぬるぬるぬるのみのみのみししし舊之
- 10宜宜よろしかるしかるしかるべしべしべし應宜
- 11住吉住吉すみのえののの住吉之1886 懽逢
- 12里里さと行行ゆきききしかしかしかばばば里行之鹿齒
- 13春春はる花花はなののの春花乃
- 14いやいやいやめづらしきめづらしきめずらしき益希見
- 15君君きみににに逢逢あへへえるるるかもかもかも君相有香聞
現代語訳
〔1884〕冬が過ぎて春がやって来ると、年月は新しくなるけれども、人は古びていくことだ。
〔1885〕物はみな新しいのがよい。ただ人だけは、古くなったのがよいのだろう。
〔1886〕住吉の里に行ったところ、春の花のように、いっそう心ひかれるあなたに逢えたことだ。
意訳
新しい年を迎えても人は年老いていくばかりだと嘆く歌と、それに答えるように、物は新しいのがよいが人は古い方がよいと慰める歌、住吉の里で春の花のように慕わしい人に思いがけず逢えた喜びの歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 寒・暖
- 「ふゆ」「はる」と訓む義訓。
- 舊りぬるのみし
- 古くなったものだけが。
- めづらしき
- 心ひかれる、慕わしい。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・1884〜1886番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 老いを嘆く歌と、人に逢えた喜びの歌。
修辞
- 対照
- 1884番の「年月は新たなれども人は舊りゆく」と、1885番の「物皆は新しき良し、ただ人は舊りぬるのみし宜し」が呼応する。
解説
1885番は「人は古きがよし」の古い言い回しの源流として知られる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、382頁(コマ195)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、434頁(コマ223)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日