万葉集 巻第十 1846〜1853番
霜枯れし 冬の柳は
霜枯れていた冬の柳が芽ぶいた。浅緑に染めたように春の柳が芽ぶく。雪の降る中で川柳が萌え出た。毎朝見る柳よ、鶯の来て鳴く森になれ。青柳の糸の美しさを恋人に見せたい。大宮人のかずらにする枝垂れ柳。梅を手にすると家の柳の眉が思われる。春の柳を詠んだ歌八首。
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題詞柳を詠める
- 1霜霜しも枯枯がれれれししし霜干1846
- 2冬冬ふゆののの柳柳やなぎははは冬柳者
- 3見見みるるる人人ひとののの見人之
- 4蘰蘰かずらにににすすすべくべくべく蘰可爲
- 5芽芽もばえばえばえけるけるけるかもかもかも目生來鴨
- 6淺淺あさ綠綠みどり淺綠1847
- 7染染そめめめ掛掛かけけけたりたりたりととと染懸有跡
- 8見見みるるるまでまでまでににに見左右二
- 9春春はるののの楊楊やなぎははは春楊者
- 10芽芽もばえばえばえけるけるけるかもかもかも目生來鴨
- 11山山やまののの際際まににに山際爾1848
- 12雪雪ゆきははは零零ふりりりつつつつつつ雪者零管
- 13しかすがしかすがしかすがににに然爲我二
- 14このこのこの河河かわ楊楊やぎははは此河楊波
- 15萌萌もえええにににけるけるけるかもかもかも毛延爾家留可聞
- 16山山やまののの際際まののの山際之1849
- 17雪雪ゆきははは消消けざるざるざるををを雪不消有乎
- 18激激たぎちちち合合あふふう水飯合
- 19川川かはののの柳柳やなぎははは川之副者
- 20芽芽もばえばえばえけるけるけるかもかもかも目生來鴨
- 21朝且朝且あさなさな朝且1850
- 22吾吾わががが見見みるるる柳柳やなぎ吾見柳
- 23うぐひすうぐひすうぐいすののの鶯之
- 24來來き居居いててて鳴鳴なくくくべきべきべき來居而應鳴
- 25森森もりににに早早はやなれなれなれ森爾早奈禮
- 26青青あお柳柳やぎののの青柳之1851
- 27絲絲いとののの細細くわしさしさしさ絲乃細紗
- 28春春はる風風かぜににに春風爾
- 29亂亂みだれれれぬぬぬいいい間間まににに不亂伊間爾
- 30見見みせせせむむん子子こもがもがもがももも令視子裳欲得
- 31百百もも礒礒し城城きののの百礒城1852
- 32大大おお宮宮みや人人びとののの大宮人之
- 33蘰蘰かずらけけけるるる蘰有
- 34垂垂しだり柳柳やなぎははは垂柳者
- 35見見みれれれどどど飽飽あかかかぬぬぬかもかもかも雖見不飽鴨
- 36梅梅うめののの花花はな梅花1853
- 37取取とりりり持持もちちち見見みれれればばば取持見者
- 38吾吾わががが屋前屋前にはののの吾屋前之
- 39柳柳やなぎののの眉眉まよししし柳乃眉師
- 40念念おもほゆるほゆるおゆるかもかもかも所念可聞
現代語訳
〔1846〕霜に枯れていた冬の柳は、見る人のかずらにできるほどに、芽ぶいてきたことだ。
〔1847〕浅緑色に染めて掛けたように見えるほどに、春の柳は芽ぶいてきたことだ。
〔1848〕山あいに雪は降り続いているのに、それでもこの川柳は芽吹いてきたことだ。
〔1849〕山あいの雪はまだ消えないのに、激しく流れ合う川のほとりの柳は芽ぶいてきたことだ。
〔1850〕毎朝私が見るこの柳よ、鶯が来てとまって鳴くような森に、早くなっておくれ。
〔1851〕青柳の糸のような枝の美しさよ。春風に乱れないうちに、見せてやれる娘がいればよいのに。
〔1852〕(百礒城の)大宮人がかずらにしている枝垂れ柳は、見ても見飽きないことだ。
〔1853〕梅の花を手に取って見ると、わが家の庭の柳の眉のような若葉が思われることだ。
意訳
春の柳を詠んだ歌が並ぶ。霜枯れの冬を越えて芽ぶく柳、浅緑に染めたような若芽、雪の残る山あいでも萌え出る川柳、毎朝見る柳が鶯の来る森になるのを待つ心、春風に乱れる前の青柳の美しさを恋人に見せたい思い、大宮人のかずらとなる枝垂れ柳、梅の花を手にして家の柳の若葉を思い出す歌がある。
語釈・文法注
文法・本文
- 蘰
- 「かづら」。草木の枝や花を髪に巻いた飾り。
- 朝且
- 「あさなさな」。毎朝。
- 細しさ
- 「くはしさ」。美しさ、細やかな美しさ。
- 柳の眉
- 柳の若葉を女性の眉にたとえた語。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・1846〜1853番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 春の柳を詠んだ歌。
修辞
- 見立て
- 1853番の「柳の眉」は、漢詩の「柳眉」による見立て。
- 枕詞
- 1852番の「百礒城の」が「大宮」にかかる。
解説
柳は春の訪れを告げる木として好まれ、かずらにして長寿や繁栄を祈った。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、379頁(コマ193)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、430頁(コマ221)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日