万葉集 巻第十 1826〜1831番
春されば 妻を求むと
春になると妻を求めて鶯が梢を伝って鳴く。羽易の山から佐保へ鳴いて行く呼子鳥、答えないのに呼びたてるな、春山近くに住んで鶯の声を聞くだろう、小竹の梢で鳴く鶯、三船の山を鳴き渡る呼子鳥。春の鳥の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞(鳥を詠める)
- 1春春はるされされさればばば春之在者1826
- 2妻妻つまををを求求もとむむむととと妻乎求等
- 3鶯鶯うぐいすののの鶯之
- 4木末木末こぬれををを傳傳つたひひい木末乎傳
- 5鳴鳴なきききつつつつつつもとなもとなもとな鳴乍本名
- 6春日春日かすがなるなるなる春日有1827
- 7羽易羽易はがいののの山山やまゆゆゆ羽買之山從
- 8佐保佐保さほののの內內うちへへへ猿帆之內敝
- 9鳴鳴なききき行行ゆくくくなるなるなるははは鳴往成者
- 10誰誰たれ喚子鳥喚子鳥よぶこどり孰喚子鳥
- 11答答こたへへえぬぬぬににに不答爾1828
- 12ななな喚喚よびびび響響とよめめめそそそ勿喚動曾
- 13喚子鳥喚子鳥よぶこどり喚子鳥
- 14佐保佐保さほののの山山やま邊邊べををを佐保乃山邊乎
- 15上上のぼりりり下下くだりりりににに上下二
- 16梓梓あずさ弓弓ゆみ梓弓1829
- 17春春はる山山やま近近ちかくくく春山近
- 18家家いえ居居おらららししし家居之
- 19續續つぎぎぎててて聞聞きくくくらむらむらん續而聞良牟
- 20鶯鶯うぐいすのののこゑこゑこえ鶯之音
- 21うちうちうち靡靡なびくくく打靡1830
- 22春春はるさりさりさり來來くれれればばば春去來者
- 23小竹小竹しぬののの末末うれににに小竹之末丹
- 24尾尾を羽羽はうちうちうち觸觸ふりりりててて尾羽打觸而
- 25鶯鶯うぐいす鳴鳴なくくくももも鶯鳴毛
- 26朝朝あさ霧霧ぎりににに朝霧爾1831
- 27しぬぬしぬぬしぬぬににに沾沾ぬれれれててて之怒怒爾所沾而
- 28喚子鳥喚子鳥よぶこどり喚子鳥
- 29三船三船みふねののの山山やまゆゆゆ三船山從
- 30鳴鳴なききき渡渡わたるるる見見みゆゆゆ喧渡所見
現代語訳
〔1826〕春になると、妻を求めて鶯が梢から梢へと伝いながら、むやみに鳴いていることよ。
〔1827〕春日にある羽易の山から佐保の内へ、鳴いて行くのは誰を呼ぶ呼子鳥だろうか。
〔1828〕答える者もいないのに、呼びたてて響かせないでおくれ、呼子鳥よ。佐保の山辺を上ったり下ったりして。
〔1829〕(梓弓)春の山の近くに住んでいるらしい。絶えず聞いているのだろう、鶯の声を。
〔1830〕(うち靡く)春がやって来ると、篠竹の梢に尾や羽を触れさせて、鶯が鳴いている。
〔1831〕朝霧にしっとりと濡れて、呼子鳥が三船の山を鳴いて渡って行くのが見える。
意訳
前に続く春の鳥の歌である。妻を求めて梢を渡り歩く鶯、羽易の山から佐保へ誰かを呼びながら飛んで行く呼子鳥、答える人もいないのに佐保の山辺で呼びたてる呼子鳥、春山の近くに住んでいつも鶯の声を聞けるであろう人へのうらやみ、篠竹の梢に尾羽を触れて鳴く鶯、朝霧に濡れて三船の山を渡る呼子鳥が詠まれている。
語釈・文法注
文法・本文
- もとな
- むやみに、わけもなく。
- 羽易の山
- 春日山の一部とされる山。
- しぬぬに
- しっとりと、ぐっしょりと。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十・雑歌・1826〜1831番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 春の鳥を詠んだ歌。
修辞
- 枕詞
- 「梓弓」が「春」に、「うち靡く」が「春」にかかる。
- 問いかけ
- 1827番の「誰喚子鳥」と、呼子鳥の名にかけて問う。
解説
呼子鳥は、その名から「誰を呼ぶのか」と恋の歌に詠まれることが多い。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、378頁(コマ193)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、428頁(コマ220)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日